本棚もの語り

本棚にみっちり詰まった漫画を端から端まで語り尽くすブログ

本棚A - 7列目(1/2):知らない誰かの思い出に触れる感覚、武富智のSCENEシリーズ

本棚7列目です。ここまで「~列」と表現していましたが、正確に書くなら「段」か「行」のような気もしてきました。そんな日もある……。

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さて、今回もいつも通り2回に分けて語ります。今回は左端の「文車館来訪記」から中央やや右の「月に開く襟」まで。

「文車館来訪記」冬目 景(全1巻)

文車館来訪記 (KCデラックス アフタヌーン)

文車館来訪記 (KCデラックス アフタヌーン)

冬目景の連作短編集、なんと全ページフルカラーです。長いあいだ人と暮らした「古道具」たちがまるで人のような姿を得ることのできる不思議な街で写真館を営む主人公と、彼を取り巻く古道具たちとの交流や郷愁が描かれています。

冬目景の絵・色の塗り方ともに好きだし、「人の姿をした古道具」という冬目景ならではの語り口も好きなので、私にとっては端から端までご褒美的な漫画です。どちらかというと初期寄りの作品なので、絵柄としてはやや古め。着物の襟の抜き具合がちょっと激しいあの頃の絵です。

ついでなので私にとっての冬目景作品について少し語りますと、始まりは「羊のうた」でした。確か高校生の頃だったと思います。当時は私よりも弟のほうが冬目景に夢中で、「羊のうた」「黒鉄」「ZERO」「僕らの変拍子」など次々と集めており、私はそのおこぼれを頂戴していたという流れです。弟はとくに「羊のうた」がお気に入りでしたが、私は近親相姦要素のあるものは男兄弟ものにしか萌えない体質であるため、どちらかといえば「黒鉄」が好きでした。少年のような細っこい体に合羽と三度笠、それで「渡世」だなんて、少年漫画ではまず見られない内容で、なおかつ時代劇風のセリフがいちいちカッコいい。

黒鉄(1) (講談社漫画文庫)

黒鉄(1) (講談社漫画文庫)

「兄い」の「い」を漢字で書いている漫画というのも「黒鉄」のほかにはまだ見たことがないのですが、今手もとに本がなく、「い」の字がどんなだったか思い出せません。軽くググッてみたら、「あにい」という名前にあてる漢字がどうとかいうページが多くヒットし、もし女の子であにいだったら気の毒かもしれない、と余計なことを考えました。

当時から「黒鉄」の続きはもう出ないだろうと噂されていた気もしますが、いまだにやはり続きが出る気配はありません。ただ同じく終わらないだろうと言われた「イエスタデイをうたって」はつい最近完結したようなので、よかったなあと心から思いました。「イエスタデイ~」は3巻くらいまでしか読めていないので、この機会に一気読みしようと思います。

ほかアフタヌーンで連載されていた「ACONY」「ハツカネズミの時間」も本誌で読んでおり、単行本も集めていました。今では事情により手もとにありませんが、つまり冬目景は大好きということです。かなり若い頃に何度も読み返していたせいで、今でもなんとなく漫画の「原風景」みたいな感じがします。冬目景の描く人物の少し腰の位置が左右上寄りにズレる感じとか、微妙に情けない男性像とか、なにかよく理屈は分からないけれども、つよく惹かれるものがある、と思っています。

最近は画集を一冊持っておきたいなと思っています。

武富智短編集「A SCENE」「B SCENE」「C SCENE」武富 智(各1巻)

以前の本棚にも出てきましたが、武富智、私がもっとも好きなのがこの3部作、SCENEシリーズです。AとBはほぼ同時に刊行され(2003年)、Cはかなり遅れて(2011年)登場しました。A~Cまで続き物ではなく、それぞれほぼ独立した短編集ですが、たまに同じキャラクターの過去やその後も描かれることもあります。

さて、私が最初に買ったのは、AではなくBでした。Bだけを思い立って買った、なぜかというと、表紙の男の子の顔に一目惚れしたからです。サムネイル画像を見ていても目が合うので照れるくらい、それくらい好みの顔立ちで、しかも目を見開いている感じなのにどこかさびしそう、なんてきれいな男の子なのだ、と思い、それでもう即買いました。確か仕事の外出でけっこう遠くに来ていて、できるだけ荷物を増やしたくなかったにも関わらず、即買い。こと書籍に対する自分の行動力にはときどき自分でも驚きます。

それで帰宅後すぐにBを読み終わり、表紙買いでまったく裏切られなかった、中味の絵もやっぱり好みだったし、ストーリーも好み、ということで、その後しばらくしてAも追加購入しました。それから武富智作品は基本的に追いかけるようになり、約8年後に刊行されたCも発売と同時に揃えました。AもBもCもそれぞれ味わいがあり、何度も繰り返し読んでいます。

まず「A SCENE」でおすすめの話は、中学生の3人組がそれぞれ少しずつ成長していく青春譚、「3ペイジ」でしょうか。私は残念ながらこういった青春を過ごすことはありませんでしたが、自分の記憶ではないはずなのに、「ほかの誰かの記憶が懐かしい」というような、奇妙な感覚にとらわれました。大衆食堂にやって来る食い逃げ青年の話、「あきらとめぐり会って」も、同じような味わいがあります。要所要所に大ゴマで描かれるキャラクターの表情がとんでもなく活き活きしていて、本当に目の前にそういう人がいるような気がするからかもしれません。表情の魅力、演出のうまさ、さらにデッサンのうまさ、といったところに武富智の「漫画」としての魅力が詰まっていると思います。

また「B SCENE」では、なんといっても「ピノキオの♪と」が好きです。1話目に収録されている「いつか忘れてしまうけど」と対になる、というか、前日譚にあたるのがピノキオで、「いつか~」ではやや不自然に見える少女の気難しさの理由というか、その発端がピノキオで明かされる、謎解きのような面白さもあります、が、個人的にはピノキオの短編が独立していてくれたほうが好みかもしれない、と思うところです。偶然と呼ぶよりは運命と言ったほうがしっくりきそうな「悲劇始まりを予感させる終わり」の演出、少年少女の抱える喪失の痛みと、それとの向き合いかた、すべてが見事に噛み合っている技巧的な楽しさと、なにかしらの共感からくる切なさ、なにもかもよくできた短編だと私は思います。

あと、Aに比べるとBのほうが恋愛話が多い気がします。私は基本的には恋愛漫画はそんなに得意ではないですし、とくに青年漫画に出てくる女性キャラには嫌悪を覚えることが多いのですが、武富智の描く女性に関しては嫌いなキャラクターがほとんどいません。嫌悪感に繋がる「現実にいそうにない女」という意味ではBに出てくる朝顔の子とか中学卒業後の春美ちゃんも当てはまるはずなのに、なぜか全然嫌いになれない、むしろかわいいとさえ思います。唯一「bazaar」のヤンママは苦手かもしれないですけど……まあそこは私がもともと家族もの全般苦手過ぎるせいもあるので、仕方ないと言えば仕方ないです。

そして「C SCENE」を紐解くと、約8年の時差のせいか絵に慣れというか余裕のようなものがやっぱり見られますね。描線の柔らかさは相変わらずですが、スピード感が増している感じです。ストーリーにもAやBでときどきあった若干の無理(※話の繋がりより絵の演出・インパクトを優先したのだろうと思われる箇所がいくつかあります、そこも魅力のうちではあるのですが)がほとんど消え、より読みやすくなっているように思いました。

CではBに登場する春美ちゃんや清くんのその後の話も語られ、なんとタイトルが「B SCENE AND BOYS LOVE」なんですね、そうボーイズラブです。これには私も度肝を抜かれました、いやほんとにボーイズラブだったので、まさかの。万が一作者から違うよって言われても私はこれをボーイズラブとして読むことをここに誓いますから。いやーもうまさか武富智が「BOYS LOVE」って……待てよ、正しくは「BOY'S LOVE」なのでは……などと余計なことを考えずにボーイズラブでいいのではないでしょうか。なにを必死になっているんだ。

武富智については今後もずっと追いかけていくつもりです。「EVIL HEART」と「The Mark of Watzel」はKindle版を所持してますが、「キャラメラ」は欲しいと思ったときには既に絶版だったのでKindle版・新装版での復活を気長に待ちます。

この世界の片隅に」こうの 史代(全3巻)

この秋にアニメ映画が公開されるようですね、楽しみです。2011年に放映されたテレビドラマ版も見ました。こうの史代は絵柄・作風ともに大好きで、メディア展開が増えるのも嬉しいです。

本書は1943年ごろから終戦にかけての広島を舞台にしたヒューマンドラマ(と言うと妙に安っぽくなってしまうのが悔しいですが、ジャンルとして当てはまるのはヒューマンドラマ)です。主人公はおっとりしていておっちょこちょいな女性、終戦間際、広島県呉市の一家に嫁ぎ、戦時中の重たい世相とは裏腹に、のんびりのびのびと生きています。だいたい上中巻までは、「昭和初期の当たり前の庶民の暮らし」が中心に描かれ、血みどろの「戦争」、とくに「恐怖」を意識させるような描写は少ないです。食糧難や空襲に備えての避難など、現代からするとさまざまな制限がありますが、こうの史代特有のやさしげなタッチで描かれる「暮らし」は穏やかで切ない。なかでも兵隊に取られたかつての幼なじみの話や、娼館での淡い思い出といったラブロマンス要素も、この時代背景をより鮮やかに描き出すスパイスのようで、胸にぴりりと響きます。

そして戦時中とはいえ穏やかに暮らしてきた人々を、容赦なくどん底まで突き落とす下巻のギャップ。小説や漫画などの娯楽に慣れた人ならこの展開はある程度予想できるとは思うのですが、というか、日本の戦争の歴史を少しでも知っていれば、上巻の「昭和18年」の文字を見た時点で想像はつくだろうと思いますが、きっと悲劇が起こるだろうと分かっていてもなお、作中で起こってしまう「悲劇」は、目を覆いたくなるほど悲惨です。それまでの暮らしぶりがほほえましかっただけに、この展開はつらい。

ただおそらく、これまで「広島」「戦争」と聞いて多くの人々が思い浮かべていた「悲劇」とはまったく違う展開です。初めて下巻まで読み通したとき、ここまで斬新な切り口で庶民にとっての「戦争」を描ききった作品は戦後日本初ではないかとすら思いました。どう死んだかではなく、どう生きるかが描かれている……悲劇は悲劇ですが、悲劇を強調することで戦争から無理に目を背けさせるような妙な啓蒙もない、戦時中を生き、戦時中であるがゆえの悲劇に見まわれつつも、その後も生きていく人々の在りようがきちんと描かれている。その後何度読み返しても、やはり傑作だとしか思えません。

この手の戦争をテーマにした作品では、なかなか「愛すべきキャラクター」というのも登場させにくいように思いますが、そこがまたこうの史代の手腕で、どの登場人物もきっちりと芯があり、性格もさまざまで、実に人間らしくて愛らしい。そうして登場人物に感情移入できるからこそ、よりリアルに感じられる情景がある。

言うまでもなく、演出も見事です。たとえばこんなセリフ、さらっと出てくるので簡単に飲み込めますが、思い返すとしみじみ味がある。

過ぎた事 選ばんかった道
みな 覚めた夢と変わりやせんな

広島弁のがちゃっとした響きもまたいいんです。

誰でも何かが足らんくらいで
この世界に居場所はそうそう
無うなりゃせんよ

今までもさまざまな戦争ものを読んできたなかで、今自分の見ている世界とこれほどリンクさせやすい作品はほかにないと今でも思います。ぜひ多くの方に読んでみてもらいたい漫画ですね。

「夕凪の街 桜の国」こうの 史代(全1巻)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

上述の「この世界の片隅に」は暮らしに重きが置かれたやや長めの作品ですが、こちらは短編。発表も「この世界の~」よりかなり前です。ただ短編ながら、めちゃくちゃ重い。登場人物の愛らしさという点では本書にももちろんあるものの、読んで感じるのは激しい「怒り」です。悲しみを上回る怒り。戦争、なかでも原爆の殺傷力の理不尽さと、原爆を落とされた事実への怒りが、風化することなく淡々と描写されている。

やわらかい絵柄、冒頭のほのぼのした流れからは想像もつかない強さを秘めた作品だと思います。迂闊に読むとしばらく立ち直れなくなりますし、実際私はこれを読んだあと数日食欲がなくなりました。グロいとか悲しいとかそういう世俗的な理由ではなく、ただこの作品の持つ強さにあてられて、今自分がのほほんと生きていることに対する自問自答が止まらなくなり、普段通りの生活が手につかなくなるような感じです。

実写映画にもなったようですが、それは見られませんでした。自分のなかではっきりとイメージのある作品なので、とても他人が作ったものは見られない、と思いました。インパクトが強すぎて、なかなか読み返すことも難しい作品です。しかしながら定期的に読み返す必要性も感じたので、半永久的に本棚に保存しておくつもりの漫画です。

なお、私が最初に買ったこうの史代作品が本書でした。その後次々と買い集め、今の本棚のようになっています。「ぴっぴら帳」は文庫版が別の本棚にあります。

「長い道」こうの 史代(全1巻)

長い道 (アクションコミックス)

長い道 (アクションコミックス)

これは打って変わって現代の、とある不思議な夫婦の日常を描いた漫画です。上述の二作を知っていると拍子抜けするくらい「普通」の話だと思いますが、私はわりとこのテイストも好きで、というか、この作品に出てくるいい加減なヒモ男がなぜか憎めず、いや実はかなり好きで、こういう男が好きだとダメなんだろうなと思うんですけどどうしても憎めず、自分でも驚くほど気に入っている作品です。「道」というのが主人公の女性の名前。

で、この道さんが大らかでおっとりしていて、悪く言えば少し抜けているところがあり、なにか親が勝手に結婚相手を見つけたとかで、とくに疑問も持たずに嫁いでしまうわけですが、嫁いだ先がその最低のヒモ男。浮気はしまくるし仕事はすぐクビになる、とんでもない甲斐性無しで道さんを売ろうとしたり人を騙したり、まあとにかくひどい男で、しかし道さんはおっとりしすぎで怒ったり悲しんだりは全然しない。当たり前のように家事をし、働いてやりくりもし、いつもにこにこ笑ってほんわか生きている。そして空には大きなみかんが浮かんでいるのです。

もしかすると、この道さんのような女性や、夫であるクズ男にムカついてしまう人もいるかも、と読みながら私は思ってしまうのですが、いや、私も本来ならこういう話は別に好きではないはずなのですが、どのキャラクターもなんとも憎めないんですよねえ……不思議です。行いはゲスなのに悪人ではない。悪気がないというか。そうやって不思議だなあと思いながら読んでいくと、「別れてやらないかもよ」と言ったときの荘介どの(クズ男)の横顔がすごくかっこよく見えたりして、もうわけが分からないですね。

こうの史代はキャラ作りも話作りも絵の描き方も、なんだかすべてにおいて誠実なんだろうなと思いました。

「アンダーカレント」豊田 徹也(全1巻)

アンダーカレント  アフタヌーンKCDX

アンダーカレント アフタヌーンKCDX

アフタヌーン四季賞をなんとなく追いかけていた時期がありまして、豊田徹也四季賞出身で、受賞作もなんか好きで、アフタヌーン本誌で最初から最後まで読んでやっぱり気になったので買った一冊。

あるところに古びた銭湯を営む夫婦があり、夫のほうが突然失踪します。妻は驚き、事故や自殺の可能性も考えて日々苦しみますが、なにも進展はありません。物語はそこから、妻の視点で始まります。休業していた銭湯を再び営業させるにあたり、新たに雇い入れた同じ年頃の男。なりゆきで夫の捜索を依頼することになった怪しげな探偵。近所のおじいさんやおばあさん、お節介なおばさん、同い年で子持ちの女友達。みな日々を淡々と生きていて、夫の行方はなかなか判明せず、雇った男の素性もよく分からない、果たして夫は見つかるのか、事件の真相は……という、まるでどこかで見た邦画のような登場人物で、まさに邦画のようなストーリーです。

ただこの手の邦画にありがちな押し付けがましい善意やグロ、お涙頂戴展開は一切なく、本当に最初から最後まで淡々としていて、ラストも信じられないほど静かなまま。話のオチ、謎の部分は途中でほぼ分かってしまうので謎解きでもないし、なにかすぐ隣の町で起こったリアルな出来事を伝え聞いているような感覚になりますね。作画も静かで、線は硬くベタはきっぱりと濃く、動きが少ない。読み終わっても不思議な後味がずっと続きます。

ときどきぐっと核心に近づくような物言いもあって、それがいいですね。あとやたら古い感じのする服装とか。子連れでちょっとスーパーまで行くような格好じゃない感じの女友達も。今読むとところどころいびつなのがまた妙な味わいになっている。作中に出てくる歌がCharaの「Duca」なのもまた、なんでそこなんだよ、という、この主人公が歌いそうにないんですけどね、ツッコミどころも含めて、不器用なりに描かれた一遍の詩みたいでやっぱり好きです。

同じ作者の「珈琲時間」も持っていたのですが、なにぶん大判の本なので、より好きだったこの「アンダーカレント」を残すことにしました。でもまた気が向いたら買って読みたいな、と思っています。

こういう派手さのない落ち着いた漫画、疲れきっているときほど読み返したくなるんですよね。

「秘密 -トップ・シークレット-」清水 玲子(全12巻)

これはもうSeason0のところでもじゅうぶん語ったと思うので、なぜ本棚にこんな中途半端な冊数しかないのか、という点に軽く触れておくだけにします。

清水玲子作品は大抵なんでも好きなんですけど、前作の「輝夜姫」の後半にかけての展開があまり好きになれず(と言っても、「竜の眠る星」や「月の子」に比べたら、というだけの話で、そんじょそこらの漫画よりはよほど好きですが)、しばらくちょっと遠ざかっていた時期がありました。で、その「輝夜姫」ちょうど後半くらいのあたり、同時進行で連載が開始されたのが「秘密」です。つまりちょうど清水玲子を追いかけてなかった時期で、当時はKindleもなく、このやや大判の本を新刊が出るごとに揃えていたら本棚なんかすぐ埋まってしまう……と、いつものごとく悩んでいるあいだに「輝夜姫」は完結し、「秘密」もいつの間にか8巻くらいまで刊行されてしまっていました。それでかなり後になってから遡って揃えていった結果、なんかこんな中途半端なことになっています。

私としては確か4巻の、薪さんが目隠ししてベッドにいるシーンの謎を解明したい気持ちが強く、はよ4巻を買わねばならんと常々焦っているわけですが、今はKindle版もあるし大判ではないサイズの新装版もある……買い直すとしたらどれがいいのか、と再び悩んで今に至ります。Season0を紙で揃えつつあるのでまあこの大判(A5)サイズを揃えるのが一番早そうですね。

12巻、ラストの青木のセリフはなんとなく中盤から察しがついていたものの、「やっぱり言ったー!」「よく言ったぞ青木ー!」と心から応援する気持ちで読めました。10巻くらいが一番つらかったですね……普通につらい展開でした。リアルタイムに読んでいるときは泣かされもして、でも今は一歩引いて二人の仲を見守るスタンスでいます。というか、もしかすると清水玲子作品のなかでもっともキャッキャして読める作品が私にとっては本書「秘密」なのかもしれません。悲壮なシーンは多いけれども、薪さんの、もはや出オチと言ってもあながち間違いではなさそうなレベルの美貌により、数々の悲劇がうまく中和されている……ような。薪さんはもう、アイドル以上にアイドル、読者の期待を絶対に裏切らない、二次元界に君臨する絶対王者みたいな風格あると思います。

……あると思います。

「愛がなくても喰ってゆけます」よしなが ふみ(全1巻)

愛がなくても喰ってゆけます。

愛がなくても喰ってゆけます。

みなさんご存知、よしながふみの食べ歩きエッセイです。ここまでよしながふみ作品を網羅した本棚でしたので、当然これもあるということです。よしながふみの自虐はなぜか嫌味がなく、化粧っけのない素顔と化粧後のギャップもなんだかすごくよく分かる、これもちゃんと計算して描いてそうだなあ、と思った覚えがあり、しかもその計算がちゃんと合っているところがやはりすごいと思いました。

作中のお店のうち、私が唯一行けたのは銀座の「ピエール・マルコリーニ」だけです。漫画に出てきたとおり、チョコパフェのチョコレートムースが甘ったるくなくめっちゃ濃くて、こんなの食べたことない、と思い感動しました。でもそれっきりですね……私はよしながふみの「食べるの大好き!」なところは大好きですが、私はよしながふみほど食べ物が好きではない、とくに外食が苦手だからでしょう。

登場人物としては、肉好きで顔が美しく学習能力のない先輩が一番好きです。あと燃費の悪い方。痩せの大食いを「燃費が悪い」と表現するの、この漫画で初めて見て、あまりのうまさに思わず膝を打ったものです。エピソードでは、よしながふみがせっかくできた彼氏をふる話が一番面白くて、ケタケタ笑いました。

このエッセイはほんと好きだったので、10年置きぐらいに新しいお店情報とともにまた描いてもらえないものだろうか、となんとなく心待ちにしています。エロティクスf(※連載誌)も復活してくれないかなあ……。

「少年少女」ねむようこ(全1巻)

ここからちょっとサブカル枠というか、ねむようこはメジャーだと思いますがこの本はやや珍しい部類の話が多く、好みなのでずっと手もとに置いています。少し不思議なボーイミーツガール系の短編集、ところどころSFっぽくもあります。

私がとくに好きな話は「ボーダーライン」。少女が飼い犬に淡い恋をしていて、いつしか飼い犬と言葉が通じるようになり、なんだか犬なのは顔だけで体は人間に見えるようになり、その人間の部分の腕をさわりながら少女が「どこまでが犬でどこからが……」と考え始める描写が死ぬほど好きです。エロいと思います。しかもこういう類の少女~女性向けではなかなか見かけない、やたら健全なエロスです。まっすぐすぎて眩しくて直視できないんですけど、アリです。

ほかにも、6000万年生まれ変わりながら探しものを続ける男が出てくる「赤コートのセルマ」、バッドエンドみたいなハッピーエンド「トレジャールーム」、どれも上品だけどエロく、そして切ない。うまくまとめられた短編映画、英語が出てこない外国の映画を見ているような気分になります。あ、装丁もきれいで、色刷りの上にさらに色刷りの半透明のトレペカバーがかかっているという、かなり凝った作りになっているので、装丁好きの方にもおすすめ。

「月にひらく襟」鳩山 郁子(全1巻)

月にひらく襟

月にひらく襟

こちらはサブカル度がより強く、さらに耽美テイストが多分に混じっている一冊。長野まゆみにハマったことのある人は漏れなく好きそうな作風ですね。私はモチーフとして「水に沈んだ街」があまりにも好きで、なんかもうそれだけでたとえ0点の作品でも100点が出てしまうほど好きなので、まあそういう私の好きなモチーフが多く散りばめられているので、落ち込んだときなんかによく読んでいます。

なぜ水に沈んだ街が好きなのか……実在する運河の街なんかも好きですが、もしかしたら小さいときに見た「カリオストロの城」のせいかなとか、最近ようやく思い当たりましたが、違うかもしれません。

(後半につづく)