本棚もの語り

本棚にみっちり詰まった漫画を端から端まで語り尽くすブログ

本棚A - 5列目(2/2):古いようで新しい、棘のある甘さ「薔薇だって書けるよ―売野機子作品集」

本棚の5列目の後半です。

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自分は蒐集家ではない、と思っているのですが、入手困難な漫画ほど手放せなくなるのは、結局ものにこだわってるってことだよなあ、とも思う昨今。逆に入手が容易であれば、あまり考えずに処分できてしまいます。「購入」という経済行為がもっとも重要であると考えているので、その後所持しつづけるかどうかは、単に好みと希少性によります。

「同窓生代行」「薔薇だって書けるよ」売野 機子(各1巻)

同窓生代行―売野機子作品集2

同窓生代行―売野機子作品集2

薔薇だって書けるよ―売野機子作品集

薔薇だって書けるよ―売野機子作品集

売野機子はですね、コミティア出身と言うとすごく分かりやすいと思う人がいるかもしれない、独特の「古くさい」絵柄・言葉の選び方があり、且つデッサンはしっかりしていて、それでいて話の展開はやたらと斬新。最近、いや3~4年前くらいからでしょうか、こういう感じの作風、コミックビームFellows!ハルタ)でもたくさん見かけたような気がします。ただ売野機子は、ちょっとその話の斬新さという点で特異ではないかと思います。そう、斬新……と言うよりほかない、通常予測できるオチに一切転がっていかない制御不能な感じがあり、そこが癖になる。

刊行順では「薔薇だって書けるよ」が一作目ですね。次に「同窓生代行」、現在は三作目「しあわせになりたい」も刊行されていますが、今のところ所持していません。なぜなら今、私の手もとにお金が潤沢にはないからです。(※どうでもいい)

そんなわけで「薔薇だって書けるよ」を最初に読んだとき、私は衝撃を受けました。どこで衝撃を受けたのかというと、超短編の連作「オリジン・オブ・マイ・ラヴ」には、百合とBLが同居していたからです。いや、表題作はすごくかわいらしい恋愛譚だし、「晴田の犯行」も少女漫画的な展開、「日曜日に自殺」「遠い日のBOY」ともにSF要素をふんだんに取り入れた昔懐かしい少女漫画風味なのですが、この「オリジン・オブ・マイ・ラヴ」だけ、なぜか百合でBL。由緒正しき少女漫画に挟まれた百合とBL。なるほどここがこの作者の持ち味か、と思った瞬間でした。いや、実際どうなんでしょうか。百合とBLが描きたかったというよりは、恋愛における切なさ重視のようにも見えますが……と思っていたら、この作者さんの次作が「MAMA 1 (BUNCH COMICS)」という、ギムナジウム要素のある少年合唱団の話だったので、やはり持っていらっしゃる……ような、気が、します。

どちらの短編集も一読するとややパンチが軽めで、さくさく読めてしまうのですが、ところがどっこい、なぜかじわじわ後を引く、読後しばらく経ってからふいに思い出すような謎のパワーを秘めています。パンチは軽いんだけどみぞおちに的確にヒットしてる感じとでも言いましょうか。この「後を引く感じ」、私は「棘」みたいだと思います。毒ではなく棘、ちょっとかわいい感じのものです。少なくとも、私の感性にはおもしろいほどちくちく刺さります。

また、この短編シリーズは装丁がすごく凝ってて素敵です。素敵という単語、久しぶりに使いましたがほかに適切なほめ言葉を思いつきませんでした。カラー写真を印刷した厚紙表紙のうえに、透け感のある白い紙に白黒印刷の表紙カバーが巻かれていて、「薔薇だって書けるよ」に使われているカラー写真は薔薇の花壇、「同窓生代行」には青空です。この装丁はぜひ紙の本で手にとってみてほしいな、と思います。紙好き、装丁好きの方にはとくにおすすめです。

懐かしいけど斬新ってどんな漫画だろう、と思った方に読んでみてもらいたい。私の本棚には珍しいタイプの、読者を選ばない漫画だと思います。

「秘密 Season0」清水 玲子(3巻~)

今秋実写映画化される「秘密 ?トップ・シークレット? 1 (ジェッツコミックス)」(全12巻)の続編ですね、現在3巻まで刊行されていて、連載もまだ続いています。本編「秘密」の大ファンである私が買わないはずがない3冊。いや本編より先に続編の紹介をするのはどうなの、という話ですが、本棚に本を配置する際、大きく重い本はなるべく下の段に、小さく軽い本をなるべく上の段に、と安全上のルールを設けているため、それに従いA5版の本編はここより一段下に置いているというわけで、つまり、本棚の上部から順に紹介することにしたこのブログのルールと噛み合わず、なんかややこしいことになっているわけです。

それはともかく、続編の1巻は薪さんの過去編、かつての相棒である鈴木との出会い編とでも言いましょうか、そんな感じだったので、2巻以降もずっと鈴木とコンビ時代の話なのかな、と思ったら2巻からは本編最終話の時間軸より先の話になっていました。言ってしまえば薪さんが登場したらなんでもありの続編、という感じでしょうか。本編が好きならまず買って損はない続編であると思います。というか私がどうこう言うまでもなく、本編が好きな方は既に買って読んでいることでしょう。

内容についてもまったく文句なしの清水玲子っぷりと言いますか、本編に負けず劣らず楽しめる続編です。ただ、私は「秘密」本編の最終話が大好きで、あまりに完璧な「最終話」だと思っていたため、「その後」が描かれるこの続編は、嬉しい半面ちょっと複雑でもあるというか、蛇足なのではないか、という思いもなきにしもあらずでした。やっぱね、薪さんと青木のその後の繋がりはうまくぼかされたままのほうが落ち着く……だって続編で青木が誰かと結婚するとか普通にありそうじゃないですか。でもそんなのできれば見たくないじゃないですか。多分きっと、みんな見たくないに違いない。

そういう、別の意味でドキドキしながら2巻以降も結局読みました。もちろん面白かったですし、今のところ青木は無事なのでよかったです。(無事……)

あと、1巻では薪さんの血縁関係について明らかになりましたが、それを見ると薪さん、もうちょっと身長伸びてもよさそうなのに、とか、体格がもうちょっと良くなりそうなものなのに、と思わないでもない、まあそんな感じの平和なツッコミができるようになる程度には「秘密」慣れしてきた私です。読み返しすぎている……そりゃもう好きですよ、好きです、この世界観、薪さんの美しさ。

4巻以降も楽しみですし、青木にはずっと無事でいてほしいものです。

昭和元禄落語心中」雲田 はるこ(9巻)

昭和元禄落語心中(1) (ITANコミックス)

昭和元禄落語心中(1) (ITANコミックス)

もともとBL方面で好きだった雲田はるこの一般向け作品、さらに連載雑誌の「ITAN」については創刊号からしばらく購読していた関係で、なかでも群を抜いてこの「落語心中」、おもしろかったので、1巻初版から買い始めて早9巻、という感じです。

なお、連載誌「ITAN」及び「ITAN」の姉妹分と言えばいいのか、同じく講談社「ARIA」、どちらも「腐女子腐女子寄りの趣味を持つオタク女子が気に入りそうな漫画が多い」傾向にあり、エロありきのBLは読みたくないがそこはかとない萌えは欲しい、といったニーズに合致した漫画雑誌だと私は思います。連載陣には雲田はるこだけでなく、阿仁谷ユイジ、びっけ、イシノアヤほか、BL雑誌でもよくお名前を見かける人気作家も多い。ただし、腐女子のスタンダード且つ幅広い年齢層を狙う傾向もまたあるため、整った見やすい絵柄、話の分かりやすさがとくに重視されているようにも見受けられます。つまり、サブカル寄りの尖った漫画が読みたい場合にはあまり向かない雑誌かもしれません。あくまでも口当たりのよい漫画が中心です。

そんなわけで落語心中、昨年アニメ化もされまして、八雲師匠が石田彰、うむ石田彰、あの役をこなせるとしたらどう考えても石田彰しかいないのは理解できるけれどもイメージは石田彰ではない、という絶妙のキャスティング、のちに石田彰がオーディションで勝ち取ったものだと知り、驚愕するとともにさすがは石田彰であると、改めて畏敬の念を覚えた次第です。助六役の山寺宏一についてはイメージ的にも山寺宏一そのものでした。あと与太郎もちーちしかいないので合っています。総じてキャストを見た瞬間になにもかも察して「うむ」となるアニメ化でした。分かる人だけ分かってくれたらいいこのニュアンス……。

さて漫画の内容としましては、一般向けではあるものの、落語家として切磋琢磨し合っていた男同士の浅からぬ因縁が物語の骨子となっているため、やはりBL寄りの「萌え」めいたものが根底に流れる落語漫画と言えるでしょう。自由奔放な助六、芯は強いが控え目で柔和な八雲、まったくタイプの違う二人の落語家の出会いと別れ、永遠の別れののちも助六の思い出に囚われ続ける八雲、その八雲の人生と、ブームが沈静化し、あるいは終焉に向かいつつあるとされる「落語」という演芸そのものの勃興が重ねて描かれる物語は、なかなか骨太で読み応えもあります。とくに昭和という時代の空気の描き方が雲田はるこならでは、という感じがします。

ただ難を言えば、なんというか、すべてのキャラクターが「キャラクターとして」分かりやすすぎる……いや私は雲田はるこ作品ほとんど所持しているので、作品が嫌いとかそういうわけではないのですが、全体的にこう、先の展開が読みやすい話ではあるので、けっこうあっさり通読できてしまい、何度も繰り返し読みたい感じには残念ながらなっていません。もしかすると棚のこのあたりは数年後には整理されてしまっているかもしれない、と思うところではあります。とはいえ、完結までは追いかけるつもりです。

右端の本じゃないコーナー「SHERLOCK」「コンフィダント・絆」(ともにDVD)

漫画ではないので紹介がいるのかどうか……これは英国のドラマ、「SHERLOCK」のDVDボックスです。現在本棚に並んでいるのはUK版、シーズン1~3まで収録されています。日本語字幕を捨ててUK版を選んだ理由は2点あり、1)UK版は日本版の半額以下でお買い得、2)UK版にはパイロット版と呼ばれる日本未公開の特典映像が収録されている、です。とくにパイロット版がどうしても見たかったので、選択肢はこれしかなかったと言っても過言ではありません。

それでパイロット版は無事視聴することができ、満足はしたのですが、私は英語が得意ではないため、英語字幕を目で追いながら映像を見て、さらに見終わったあと英語字幕の日本語訳を探して一度おさらいし、もう一度英語字幕を見て……というのを繰り返し、脳がたいへん疲れました。英語がもっと分かれば効率的に萌えられるのに。

なお、普段はHuluなどのオンデマンド配信サイトで日本語字幕版を見ています。このDVDは先に述べたパイロット版と、あとはただただ蒐集欲求を満たすことが目的の物理存在です。費用対効果はわりとよかったです。

コンフィダント・絆 (PARCO劇場DVD)

コンフィダント・絆 (PARCO劇場DVD)

三谷幸喜作・演出の舞台「コンフィダント・絆」のDVD。若かりし日の天才画家ゴッホと、彼を取り巻く画家たち、ゴーギャン、スーラ、シュフネッケルの交友を描いた作品です。私はもともと三谷幸喜の演劇は好きなのですが、演劇ファンの友人から三谷幸喜作品のなかではこれが一番好きと言われ、まだ見たことがなかったので買いました。再演されるかどうか分からないものはDVDを借りるか、レンタルになければ買うかする方針です。

主役というか、のちにもっとも名声を得るゴッホ役が生瀬勝久、スーラに中井貴一ゴーギャン寺脇康文、シュフネッケルに相島一之と、役者陣が実に豪華で演技力も安定しており、見ていて飽きるということがなく、2時間半ほどに渡る上演時間もあっという間でした。

三谷幸喜らしい分かりやすい本筋と、ところどころに顔を出すブラックな感情。嫉妬や羨望、焦燥など、「画家」という厳しい職業を選んだ才能人たちのやり取りというよりは、それをあくまでも普遍的に、まるで現代の高校~大学の美術部における日常のように描いている点が、凝った芸術ではなく大衆演劇の見本のような作品だなと思いました。

あと、普段は三枚目役も似合う生瀬さんが普通に男前っぽくかわいいです。そういう意味では非常にレアな作品だと思います。

(6列目につづく)