本棚もの語り

本棚にみっちり詰まった漫画を端から端まで語り尽くすブログ

本棚A - 4列目:毒入りフェティシズムとかわいい笑いの絶妙バランス「純情パイン」

本棚4列目は漫画の種類が少なめなので一回で書きます。

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このあたりから、完結していない漫画がちらほら見られるようになります。完結していないということは、つまり私が興味を失わず買いつづけると買ったぶんだけ増えつづけるということです。本が増えると本棚に収まりきらなくなりますので、いつかはこの写真の構成でなくなる日がくると思います。それがいつかは分からないし、もしかすると選別の痛みに耐え切れず本棚のほうを増やすことになるかもしれません。なんせこのゾーンもまたお気に入りだらけなのであり……。

聖☆おにいさん」中村 光(12巻~)

聖☆おにいさん(1) (モーニング KC)

聖☆おにいさん(1) (モーニング KC)

もはや紹介は不要ではないかと思われる人気漫画ですね。仏と神、ブッダとイエスが人間社会(※東京・立川)に降臨、六畳一間のアパートで質素に暮らしちゃうほのぼのギャグ漫画。

さてさて、私と聖☆おにいさんたちの出会いというと、1巻が発売されて間もない頃まで遡ります。1巻の発行年は2008年なので、今から数えると8年前でしょうか。当時お気に入りの絵師さんのブログで紹介されているのを見て、こんなんすぐ読みたいやんけと思い近所の書店へ走ったのですが、なんと品切れ。えっまだ発売から一週間も経ってないのに、えっなにそんなに人気なの、と戸惑いながら増刷を待った覚えがあります。

今手もとの1巻の奥付を見ると、第一刷が2008年1月23日、第二刷が2008年2月20日となっているので、私が持っているのはこの第二刷にあたります。増刷がかかるまでかなり早い、という印象。さすが講談社モーニングKCというか。人気を見逃さない増刷、うむ。(※私は活字中毒気味であるため、漫画作品といえど巻末の奥付までなんとなく目を通すということがままあり、増刷のタイミングを記憶したりなどしています)

はい、というわけで無事第二刷の1巻を手に入れた私は、通読後あまりの面白さと萌えに手足をばたつかせ、悶ました。今だったらあらゆるSNSで「いいね」を表現しまくったと思うのですが、当時はもうどうしていいか分からず、翌日2冊目の1巻買い求めました。面白すぎて2冊分の金を払いたくなる、「聖☆おにいさん」は私にとってそういう漫画でありました。

中村光の「荒川アンダーザブリッジ」は既に読んだことがあり、絵のバランスもいいしネタも面白い、今後どんどん活躍される漫画家さんだろうと思ってはいたのですが、「聖☆おにいさん」のほうがより普遍的というか、神と仏は超有名人で知らない人はいない、つまり、より幅広い読者に受け入れられ、愛されるだろうと思いました。その予感は当たっていたなと今12巻まで並んだ背表紙を見てニヤニヤ頷く私です。

なお、余分に買った1冊は後日友人に誕生日プレゼントとして贈りました。友人は私のような腐れたオタクではなく、とくにめちゃくちゃ漫画が好きというわけでもない、なのに私と仲良くしてくれる程度には変わり者、そういう感じの女性であり、読後には「喋り方が丁寧」「かわいい」などの感想を聞かせてくれました。この漫画を読んで真っ先に「丁寧」という感想が出てくるこの友人のことが私は本当に大好きです。

登場人物に関しては、ブッダとイエスのコンビはもちろんのこと、私が一番萌え……もとい好みだなと思うのは漁師兄弟です。とくに弟のアンデレが好き、なにかこういう前髪が長くて一見表情が分からない系の外見が好きなようです。もしかすると、外見だけロキノン系のバンドの人に見えているのかもしれない。(※私は筋金入りのBUMPファンです)ただこの兄弟が腐女子的な意味合いでの「カップリング」なのかというと難しいところで、ペトロとアンデレが一緒に受付のところにいるだけで幸せな気分になる、別にデキている必要はない、といった感じで曖昧さを保つことにしています。

まあキャラ単体萌えは置いておくとしても、カラーページなど見ていると中村光の描く男性キャラの骨っぽい感じとか肩幅と腰のサイズ感とかつくづく好きだなあと思ったり、大ゴマの使い方絶妙だなとか、スーツ描くのやたらうまいなとか、Twitterとか現代の小物使うのうまいなとか、ひとつの漫画作品として見ても結局うまいしか言えないんですけど、やはり売れるべくして売れた漫画だと思う。作者さんに無理のない範囲でこち亀みたく長寿化してほしい、私の望みはそれだけです。

なるべくこの望みが叶うよう、応援の意味も込めて、限定版が出ているときは必ず限定版を買うようにしています。お賽銭の一種です。

というのを書きつつ今ふと思ったのですが、最近BL界隈で流行っている「上質な暮らし」、もしかすると聖さんたちの生活ぶりも「暮らし」部分の源流の一部にあたるのかもしれないですね。

きのう何食べた?」よしなが ふみ(11巻~)

こちらも説明不要かと思います。食べることは暮らすこと、同棲しているゲイカップルの日常と日々の「食事」をおもに描く「レシピ漫画」の元祖。

そう、「レシピとしても使える漫画」、今ではブームかと思うくらいたくさん出版されていますが、この「何食べ」が本家本元、これ以前にはここまで丁寧なレシピ漫画は存在しなかったのではないでしょうか。もちろんクッキングパパ美味しんぼなど、グルメ漫画は古くから続いているわけですが、ここまで「レシピ」に重点を置いた漫画というと、やはり「何食べ」が初ではないかと考えています。

(その後成功しているレシピ漫画というと代表格としては「甘々と稲妻」が挙げられそうですね、どちらも好きです)

よしながふみのアイディアは本当にすごい……もともと「食べることが好き」らしいというのは食べ歩き漫画「愛がなくても喰っていけます」で知りましたが、「食べること」「料理すること」を漫画の仕事と見事に融合させているこの感じ、こんなのもう敏腕起業家の発想ではないか、と思ってしまうレベル。なんというか、レシピの二次創作というか、一から十まで作り込む「物語」で分の悪い勝負に賭けるのではなくて、自分の好きなもの、得意な分野に強引に「物語」を引っ張りこんでくることによって勝利をおさめている、圧倒的な「勝利」のこの感じ、この実力、作者自身が少年漫画の主人公になれそう、という、漫画家としても、ビジネスパーソンとしても、成功者・よしながふみを私は尊敬してやまない。なお、主役の二人の職業の選び方なども、おそらく作者ご本人と接点の少ない「普通のサラリーマン」を絶妙に避けていて、まったくもってよくできていると思います。

と、勢い込んで語ってしまうくらい、私はこの漫画が成立している背景がすごいと思うわけですが、主題であるレシピにもたいへんお世話になっています。玉ねぎを炒めずに作るハンバーグ、定番です。餃子もほぼ同じ分量で作るし、年に一度は生たけのこを買うようにもなりました。

そしてレシピのみならず、主役のゲイカップルのお二人のことだって好きです。最近はワタルくんが大好きなんですけど(アサリ入りのチゲ鍋もワタルくんレシピで作る私です)、やはりシロさんとケンジ、いや、腐女子的な掛け算を意識した書き方をするならケンジとシロさん、昨年の冬コミでしっかりご本人の同人誌もゲットしました。最高でした。

これからも何年でもずっとシロさんとケンジの生活ぶりを見守っていきたいです。

「おひとりさま出産」七尾 ゆず(2巻~?)

おひとりさま出産 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)

おひとりさま出産 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)

2巻から先が確実に出るのかちょっと分からないので、巻数の部分に「?」をつけました。現在は2巻まで出ており、1巻~2巻中盤まで出産準備、2巻の最後で出産、という流れ。

ともかくタイトル通り、作者がひとりで出産するまであれやこれやと奮闘するエッセイ漫画です。作者がまた底抜けに明るく力強く、こういったエッセイ漫画にときおり見られる湿っぽさはほとんどありません。たとえば「家を建てよう!」とか、「弁護士になろう!」とか、そういう「明確な目標を持ってそれに向けてタスクをこなしていくぞ!」系統の、ある意味ビジネス書みたいなノリです。

なので、作者が生物学的な父親として選んでいる相手がどれほど一般的な価値観からして最低であろうと(実際この男に腹を立てて読めなくなる人はいると思います)、乳飲み子を抱えてしばらく働かなくてもいいようにせめて百万円貯めようと、臨月になっても徹夜でバイトを続ける様子がどれほど痛々しくても(これも知り合いがこんなことしてたら怒り狂う人いそう)、でもあくまで明るく目標=出産に向けて一直線に努力する作者のエネルギーがもう紙面から溢れ出して若干ながら狂気を感じるレベルかもしれない、私はこの作者のバイタリティに触れると自分の怠慢を自覚し胸を抉られますが、だがそれがいい、心拍数が実際おかしくなるくらい心を動かしてくれる漫画が私は好きです。

出産に興味のある方はもちろん、なにかこう、堅実に努力している人を見て打ちのめされたりケツを叩かれたりしたい、という方にも、とくにおすすめの漫画です。

「あたたかい肩」雁 須磨子(全1巻)

あたたかい肩 (BEAM COMIX) (ビームコミックス)

あたたかい肩 (BEAM COMIX) (ビームコミックス)

はい大好き雁須磨子。本棚にはひたすら好きな漫画ばかり集めているので好きなのは当然なのですが、まったくもって好きとしか言いようがない雁須磨子

まず絵の魅力があると思うんです。このふんわりした絵柄、やわらかくもしっかり濃淡のある描線。そこから溢れ出る色気。見ようによっては線が荒くて雑に見えるかもしれませんが、しかしデッサンは非常にしっかりしています。変な方向に腕が曲がって見えたりはしない、人間は人間らしい丸みのある姿に描かれている。女の子は肩がまるく、男の子は角ばっている。計算ずくの写実的な絵ではないからこその温度感がある、そう、雁須磨子の絵はこの漫画のタイトル通り、「あたたかい」感じがします。

ストーリーも、いわゆる日常系と言えばいいのでしょうか、ものすごく大事件が起こるわけでもないし、ものすごく悲しかったりアホみたいに大笑いしたりもしない、つまり大げさな感じはほとんどないです。主人公たちが、なんだかんだ照れ笑いしながら、日常のちょっと謎っぽいこととか、ちょっと性的なこととか、ちょっと心苦しいこととかを体験して、なにかを思う、いろんなあたたかい「日々」を集めた短編集。

なかでも「サーフィス・テンション」という短編、雁須磨子のBLでない話のなかでは珍しく変態っぽくて、変態というかエロスといったほうがいいのか、なかなか私好みでした。

もう一度言いますが、この絵柄で、この色気、ここがもう、すごいところ、雁須磨子の。

という、書いている感想がつられてしまうくらい、会話文や地の文もほんわかやさしく、いかにも誰かが喋ってそうな口語で書かれています。初めて雁須磨子を読む場合、ノリがずれると読みにくいかもしれませんが、口語の使いこなしっぷりがまた見事なので、読んでいるうちに慣れてくるとは思います。読む人を選ぶとすれば、男性よりは女性向けかな……でもエロティクス・エフに連載されていた「幾百星霜」とか男性ファンも多そうなので、一概には言えないです、ハマると全部読みたくなって危険かもしれない。

「右足と左足のあいだ」雁 須磨子(全1巻)

右足と左足のあいだ (Feelコミックス)

右足と左足のあいだ (Feelコミックス)

同じく雁須磨子の短編集。右足と左足のあいだって、なにが……と考えると、だいたい分かってくると思いますが、股です。(身も蓋もない……)いやそういう下品な話ではなく、ちょっとだけ性的なこととか織り交ぜながら、やはり女性たちの日常がつづられる短編。

雁須磨子の短編集、そこそこ数多く出てるなかで、私はとくにこの二冊が好きで、ずっと本棚に置いておこうと思っている、そういうコーナーです。

少年エスパーねじめ」・「純情パイン」尾玉 なみえ(各1巻、総集編)

純情パイン<完全版> (シリウスKC)

純情パイン<完全版> (シリウスKC)

なみえ愛してるー!

これしか言えない、逆にもうほかに言いたいことがない。なみえのギャグセンスが心の底から好きだとしか言いようがない。

だってね、思いつかないと思うんですよ普通は。「縦笛が頭に刺さった少年」、その刺さったままの縦笛を吹くと少年の眼球や鼻や耳からぴょろ~って音が出るとか。思いつきます? いや常人の発想じゃないと思う、縦笛が頭に刺さるだけでも私は笑うと思いますけど、それをさらに吹くとか。正気じゃない。でもこれをナチュラルにぶっ込んでくるのがなみえ。あるいは眼鏡が急にでっかくなるときの効果音が「あば~ん」とか、なんの音だよっていう。でも多分、眼鏡がでっかくなる音以外のなにものでもない、それがなみえ。

そんなわけで内容については各人読んで頂ければいいと思うし、私のような凡人がいったい何を語るというのか、もうそういうことなのでとりあえず置いておくとして、なぜうちの本棚には愛蔵版の「少年エスパーねじめ」「純情パイン」があるにも関わらず、コンビニとかで買える集英社ジャンプリミックス版もあるのか、という説明をしようと思います。

時系列で見ていくと、この3冊の並びのなかで、もっとも先に出版されたのは集英社ジャンプリミックス版です。(「集英社ジャンプリミックス」、長いのでSJRと略します)その後かなり時間が経ってから愛蔵版の2冊が登場しました。が、愛蔵版2冊にも時間差があり、純情パインの発売が先で、その後しばらくねじめは出ませんでした。巻末を確認すると、SJR版が2008年、純情パインの愛蔵版が2011年、ねじめの愛蔵版が2014年です。

私が購入した順も、出版順と同じSJR版、愛蔵版のパイン、愛蔵版のねじめ、となります。

さて、私のこだわりをすべて説明するためには、まず通常のジャンプコミックス発売当時まで遡らなければなりません。ジャンプコミックスの発売が2001年、当時まだ学生だった私には、財力がまったくありませんでした。なぜならバイトで稼いだお金などは全部同人誌制作と同人誌購入にあてていたからです。常に火の車、財布はすっからかん。その頃恥ずかしながら立ち読みしたジャンプ本誌でなみえを知り、衝撃を受け、打ち切りに泣き、一生応援しつづけようと決意はしたものの、財力のない私はコミックスを購入することまではできなかったわけです。たった400円ちょいが払えなかった……悲しい過去です。

その後社会人になり、そこそこ収入を得て自由に漫画を購入できるようになった頃には、純情パインもねじめも既に絶版。古本屋を回れども巡り合わずで、くちびるを噛みしめる毎日でした。

しかし2008年、ついに私はコンビニでSJR版と出会います。大好きだった純情パインにねじめ、これで両方ともいつでも読めちゃう。なみえを好きでいつづけてよかった、神様(というか集英社様)ありがとう、バンザイ。もちろんその場で購入、懐かしさにむせび泣きながら読みました。また、本が手もとにあれば友だちに貸すこともできます。イェーイ布教イェーイ。しかしこれを貸し出した友だちは微妙に目を逸らすみたいな感じにだいたいなるんですけどなんでかな……?

その後2011年、満を持して「純情パイン」愛蔵版が発売されました。ここまで「愛蔵版」と書いてきましたが、実際のタイトルは「完全版」ですね。愛のあまり愛の字を使いたかっただけなので見逃してください。

この完全版、集英社ではなくシリウスコミックス刊です。2009年ごろには下で述べる短編集「脳酸球」が既に刊行されており、なみえが月刊少年シリウスに連載を持っていることも私は知っていたのですが、しかし「純情パイン」は週刊少年ジャンプ連載作品、別の出版社から完全版が出るなんてこと、あっていいのだろうか。そのような疑問が脳裏をかすめはしたものの、まあでもとにかく出たものは出たということでよろしい、なんと巻末に没ネームまで収録されている、ありがとうシリウス、パインを再びこの世に送り出してくれてありがとう。結局また天に感謝しながら飛びついた私です。即買いでした。

ただこの時点では、完全版なんてきっと「純情パイン」だけなんだろうな、と思っていました。私は「純情パイン」ももちろん好きですが、「少年エスパーねじめ」のほうがちょびっとだけ余計に好きです。縦笛が頭に刺さるシーンが好きだからです。なので、「純情パイン」完全版が刊行されたからといって、「少年エスパーねじめ」が全話収録されているSJR版を手放すことなどできない。こうなったら純情パインパインねじめの状態で本棚に置いておくしかない。そう思いました。

そしてそれから再び約3年が経ち、驚くべきことに「少年エスパーねじめ」の完全版までもが刊行されました。シリウス最高、なみえを愛してくれてありがとうシリウス、某少年漫画の主人公の兄貴の死に際を髣髴とさせる顔ですぐさまこれも購入した私です。パインと同じく没ネーム集に描き下ろしまで掲載されている、ほんまに完全版や、こんな日がくるなんてあの頃には思いもしなかった、ああ長生きしてよかった、永遠にずっと漫画読んでたい……。

相当大げさになみえを満喫し、これでもう二作品とも完全版が手に入ったのだから、ちょっと紙質の残念なSJR版は処分したらいいのではないか、そういう気持ちがじょじょに起こってきたわけですが、だがしかし、そうはいかなかったのです。なぜなら、SJR版には、週刊少年ジャンプ恒例「巻末の作者コメント」、そのすべてが収められているから。そう、なみえが毎週末なにかしら書いていたしょうもない(?)巻末コメント。没ネームまで収録されている完全版といえども、さすがに巻末コメントまでは載っていません。これらのコメントはもはやSJR版のなかにしか存在しないのです。ゆえに私はSJR版を処分できない、永遠に。

このような事情により、我が家の本棚は純情パインパインねじめねじめということになっています。貸し出し用はSJR版です。残念な紙だけあってちょっとだけ軽く、持ち運びに便利なため。

「脳酸球」尾玉 なみえ(全1巻)

散々語り尽くしたのでもういいかな……なみえがジャンプから旅立ち、月刊少年シリウスにたどり着くまでに、ヤングジャンプビジネスジャンプにちょいちょい載せていた読み切りをかき集めた短編集といったところ。ほかになみえ作のギャグ漫画で今ではけっこうな長編になっている「マコちゃんのリップクリーム」がありますが、いつかそれも全部集めて本棚になみえコーナーを作りたい、私の夢です。

作風はパインやねじめの頃とそう大きく変わりません、というか、変わってもらっても困る、あの毒々しさ、下品、エロス、おかしい発想、でもちょっとなんか照れ屋な感じ、そのすべてが好きなので、で、そういう魅力の詰まった短編集です。いきなりねじめとかはヘビーかもしれないので、なみえ初心者向けといったところかもしれません。

なお、この「脳酸球」「純情パイン完全版」「少年エスパーねじめ完全版」それぞれ単行本の小口に印刷があり、「脳酸球」では「売らんといて捨てんといて置いといて」、「純情パイン」では「週刊少年ジャンプ掲載作品」、「少年エスパーねじめ」では「One More JUMP」と書かれています。ジャンプへの未練までもギャグにしている、恐るべしなみえ。というか私、一瞬、「No More JUMP」に見えて、そういう方向でも軽く吹きました。バイバイジャンプ、それもまたCOOL……。

「いるのにいない日曜日」三好 銀(全1巻)

いるのにいない日曜日 (BEAM COMIX)

いるのにいない日曜日 (BEAM COMIX)

なみえの隣に並べるべきではない硬派な短編集です。ちょっと並び方を考えなければいけません。コミックビーム系、いやどっちかというとビッグコミックかな、分かる人にはこれだけで分かると思いますが小学館のサブカル寄りで好む人が多そうな作風です。

とある夫婦と、一匹の猫が織り成す日常と、ほんの少しの不思議、という感じ。エログロが含まれない系の純文学っぽいと思います。

たとえば、「3年前の日記のなかにくっついてしまって読めないページがある」「少しだけ剥がすと、なにやら住所が書いてある」「なにかのついでにその住所あたりまで行ってみる」というような話の流れで、ほんの少しの不思議が起こる、単なる日常系にとどまらない、モヤッというよりは、チクッという感じですかね、すこーしだけささくれが刺さる、この「不思議」の設定の仕方のさじ加減が心地いい。

これは批判ではないんですが、猫も人間も絶妙にかわいくない絵なんですけど、でも別に憎たらしいわけではなくて、シュルレアリスムっぽい、不穏な絵画を見てる感じで、とても嫌いにはなれないんですね、逆にちょっと愛着がわいてしまう。

つくづく不思議な漫画だなあと思います。

(つづく)