本棚A - 2列目:「乱と灰色の世界」いつか大人になりたかった少年少女のための物語
天井側から2列目です。
この列も完結済み・一冊完結ものが多いです。右側はBL小説コーナー、単にサイズ感がちょうどよいので並べています。左から順に紹介します。
「あの人とここだけのおしゃべり」よしなが ふみ(全1巻)
あのひととここだけのおしゃべり―よしながふみ対談集 (白泉社文庫)
- 作者: よしながふみ
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2013/04/26
- メディア: 文庫
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写真が見切れ気味で申し訳ない、上記の通りの本が入っています。
そして、これは漫画ではなく対談集です。私の本棚にありがちなこととして、種別よりサイズを優先してしまうというのがあります。この対談集は、少し大きめのコミック本とほぼ同じサイズであるし、著者であるよしながふみの一般向け1巻完結漫画と隣どうし並べられる、ということで、この位置に並んでいるわけです。
そういう本棚への並べ方に関する偏執はまあ置いておくとして、「あの人とここだけのおしゃべり」ですね、この対談集を読むと、「腐女子がなぜBL本を読みたくなるのか」がなんとなく分かるようになると思います。自称・腐女子の私が自信を持ってそう言えるのは、今のところこの本だけです。同じくBL好きの友人たちも皆よく言います、よしながふみの対談集が一番分かりやすい、と。
なので、そういうことに興味のある方は読んでみるといいのではないかと思います。そうでない人が読むと、ちょっとめんどくさいかもしれない。ほぼすべて「オタク女が集まってディープな話をしつづけている」ノリなので、だらだら長い語りが苦手な人には向かないと思います。(対談相手は人気漫画家さんが多く、ここで私が『オタク女』などと軽い感じで言い切ってしまうのは大雑把過ぎて申し訳ないですが、読んでいるとノリが自分たち=妙齢のほも好き女の会話に本当にそっくりであるため、このように述べました。ご理解頂けますと幸いです)とはいえ、腐女子「論」ではなく、あくまで対談ということで、ボリュームのわりに読みやすい、目で文字を追いかけやすいとも思います。
腐女子でない限りはあまり使わないと思われる用語も登場するので、そういった用語などに文化的な興味がある人にとってもおもしろいかもしれません。「一棒一穴主義」とか。あるいは、対談に出てくる様々な娯楽作品(おもに漫画)についても出典が明記されていることから、漫画に関する見聞を広めたい場合も読んで損はないはずです。
そんなわけでまとめると、「お前はなぜ腐女子になったのか」と問われたときの最短解答例として使用することができる本書、興味本位の問いにうんざりしている腐女子のみなさんにとくにおすすめです。少なくとも私にとっては非常に有意義な書物でした。
「愛すべき娘たち」よしなが ふみ(全1巻)
- 作者: よしながふみ
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2003/12/19
- メディア: コミック
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よしながふみ並びですね、同じ作者はまとめたい心意気はあるのですが、1列目にあった「西洋骨董洋菓子店」から若干距離があります。趣の違いが距離になっている気がします。(なお、「きのう何食べた?」はまたかなり離れた列に並んでいます)
私がごく普通の漫画好きの人によしながふみ作品をすすめるとしたら、まず本書を挙げると思う、そういう類の漫画です。母と娘、女と女友達、祖母と孫など、様々な「女」の人生を切り取っていく連作短編集。漫画表現としての笑い、喜劇性はもちろんあるものの、話の運びとしては純文学作品に似ているようにも思います。
印象的な文をひとつだけ紹介すると、
母というものは
要するに
一人の不完全な
女の事なんだ (p.199、最終話「愛すべき娘たち」より)
という部分。
私はここを読んだとき、この漫画は絶対ずっと家に置いておこうと決めました。それから何度も読み返して、もうすっかり内容は覚えてしまっているし、全部が全部共感できるというわけでもなく、敢えて粗探しをするならここまで見事に「漫画的な」家族や親子や女友達はリアリティに欠けるなとか、思ったりもするのですが、それでも上記の一文を読んだとき「ああ、そのとおりだ」ってあまりにもしみじみと腑に落ちて泣いてしまい、その感じをいまだに忘れられない一冊です。
「群青学舎」入江 亜季(全4巻)
- 作者: 入江亜季
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2006/08/31
- メディア: コミック
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入江亜季はまず絵が素晴らしい、描線がのびやかで、登場人物の表情もいきいきしていて、これぞ「漫画!!!」と何個でも感嘆符を並べたくなる圧倒的な画力、四の五の言わずとにかく一冊手にとってページをめくってみてほしい作品が「群青学舎」です。
(ただ、絵の好みは人それぞれですから、私はこういう柔らかくディフォルメの利いた絵柄が好物ですが、例えば「X」の頃のCLAMPのような美麗・繊細な絵が好きな方には合わないかもしれないですし、デスノやバクマンの小畑健的な写実性が好きな方も少し違うと思うかもしれません。冨樫義博や「エマ」の森薫が好きな人、ちょっとめんどくさくなってきたので適当にまとめると「コミックビーム系の」絵が好きな人にはおそらくドンピシャです)
さらに余計な前置きをすると入江亜季に関しては同人誌時代から好きです。(はじめは友人の影響だったように思います)また、本書「群青学舎」と同時期の短編集「コダマの谷」ももちろん所持していたのですが、10年近く前に友人に貸したまままだ返ってきていないので、今この本棚にはありません。友人よ、はよ返せよ。
さて、本書ですが、1巻から4巻まですべて短編集です。といっても、登場人物が同じだったり、背景や人物に繋がりがあったりということが頻繁にあるので、連作とも言えると思います。時代設定は現代または近代が多いですが、場所があきらかに日本ではないどこか、という作品が多いです。要はちょこっとファンタジー。読んでいると、「想像力」「自由」「青空」といった単語が浮かんでくると思います。いや、浮かぶのは私だけかもしれないんですが……浮かびます。
セリフがまったくなく、絵だけで語られるエピソードなんかもあります。2ページ見開きのダイナミックな構図、圧倒的な画力によって繰り出されるパンチの利いたアングルさばき(さばき……?)、もうほんとこの作者、漫画が好きなんだろうな、絵を描くことが大好きなんだろうな、って伝わってくる、漫画でできるあらゆる表現に挑戦している感じがします。それでとにかく女性の「目」が印象的、色っぽい。デッサンが巧みなので女性の体つきもやたら肉感的で……豊かな胸、大きなお尻が好きな人はウホッてなるんじゃないでしょうか。いや、でもいやらしい系じゃないのでウホッとはならないか……「うっとり」だと思います、多分。
バッドエンドでもハッピーエンドでもない、絶妙にかわいらしい後味が残る短編が多いので、次に紹介する作品とは違い、肩の力を抜いて読める部類の作品だと思います。
なお、私は入江亜季の絵はただ好きなだけでなく憧れもあるので、自分が同人誌を制作する前によく儀式的に読み返したりもしています。本棚に並んでいる漫画のなかで、おそらくもっとも読み返している漫画のうちのひとつ。
「乱と灰色の世界」入江 亜季(全7巻)
- 作者: 入江亜季
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2009/11/16
- メディア: コミック
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この記事のタイトルに選んだ一作、入江亜季の長編作品です。「群青学舎」よりさらに画力が上がっているようにも感じられ、もはや神の域に達している気がします。
本書の主人公は「漆間乱」、うるまが苗字でらんが名前、小学生の女の子です。一見すぐ隣に住んでいそうな、どこにでもいる元気でかわいい女の子、けれど乱は「魔法使い」なのです。というか、漆間家は一家全員が魔法使い。母も父も超強い魔法使い。お兄ちゃんは魔法使いで狼男。漆間一家は、自分たちが魔法使いであることを隠し、人間と共存しています。
しかし、このちびっ子魔法使いの乱、魔法使い界では落ちこぼれです。なにかしら可能性を秘めてはいるものの、1巻の時点で唯一使える魔法は「大人の靴をはくと大人の体になる」というもの。中身は小学生なので、大人の女の体でちょっとアレな騒動を起こしたりいろいろあり、妹思いのツンデレ狼兄貴は頭を悩ませています。分かりやすく言えば、見た目は大人、頭脳は子ども、逆コナンです。
そして乱は、大人の女の姿でうろうろしているとき、とある富豪の青年と出会います。青年は、眉毛が強そう。いや、なんか金を持ってるのでモテるしなんでも手に入るけど、心は空洞で人でなし、という、けっこう典型的な「富豪の青年」であります。青年は、見た目は完璧な女性だけれども天真爛漫な乱(中身が10歳なので当たり前ですが)に惹かれていきます。序盤では完全にやる気です。何を、とは言わないが。乙女ゲーのキャラっぽさもありますね、戸惑う乱を強引に押してくる。乱は戸惑うっていうか、子どもなので「分かってない」だけという状況が多いですね。
また、乱はなかなか小学校に馴染めず友だちが少ないのですが、のちに富豪青年のライバルとなる少年・日比くんや、同い年のツンデレ魔法使い少女・仁央(にお)ちゃんと仲良くなったり、魔法使いの先生であるたま緒さん(※ここで全力で言っておきますと、このたま緒先生は、入江亜季作品でおそらくもっとも強調されているガリガリ「貧乳」キャラ、でもそれが美しいので、貧乳ファンの皆さまにおかれましては、ぜひともたま緒先生の胸元に注目して頂きたい)のスパルタ授業を受けたりしながら、少女としても魔法使いとしても成長していきます。
と、ここまでは明るく楽しい魔法使いの少女の成長物語、のように紹介してきましたが、この漫画がすごいのは、それで終わらないところです。予想もしない方向に話が転がっていく。だいたい4巻くらいからはシリアスな場面が増えていき、最終巻は涙なしには読めません。というか、私は泣きました。ネタバレしたくないし、読むならできればネタバレには一切触れずに読んで頂きたいので、あらすじの紹介はこの辺にしておこうと思います。
そして最後の最後、後日談ですっかり成長した乱の姿が描かれます。
ちょうどかつての乱と同じくらいの年ごろの、甥っ子にあたる魔法使いから乱はこう尋ねられます。「大人になる魔法使えるって本当?」
乱はこう答えるんですよ、これはこういう漫画なんです。
一瞬で大人になる魔法なんて ないよ
今ちょっと読み返しただけで涙ぐんでしまった。そろそろ新連載も始まるようですし、今後も期待の作家さんです。
「月に笑う」木原 音瀬(上下巻)※BL小説です
- 作者: 木原音瀬,梨とりこ
- 出版社/メーカー: リブレ出版
- 発売日: 2009/12/18
- メディア: 単行本
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- 作者: 木原音瀬,梨とりこ
- 出版社/メーカー: リブレ出版
- 発売日: 2009/12/18
- メディア: 単行本
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ここからはBL小説が続きます。例によって、サイズ感がぴったりなので並べている、あとよしながふみゾーンが近いという理由もまあ多少あります。
本書「月に笑う」は、ヤクザの下働きをするチンピラ不良青年が攻め、一見弱そうないじめられっ子が受け、というのが上巻、ごく普通の力が強い年上の攻め×気弱で根性なしの年下受けですね、この関係性が下巻で完全にひっくり返る点がおもしろいBLです。つまり、下克上やリバが苦手な人はやめたほうがいい系です。
なんというか、この本棚の並びを見ただけで分かると思うのですが、私はBL小説といえば木原音瀬のファンで、本棚に残すかどうかの判断基準が木原音瀬に関してはちょっと甘くなっているかもしれません。
木原音瀬のどういうところが好きかというと、破壊力です。BL作品にHUNTER×HUNTERの念能力の分類(水見式)を当てはめるとすれば、木原作品は完全にゴンと同じ強化系、スタンドで言うと近距離パワー型です。ストーリーの推進力がすごい、ぐいぐい読ませるし、人間と人間の感情がぶつかり合ってときに爆発し、砕け散りながら結末まで進んでいく、それでいて後味が重い話が多い、イヤミスならぬイヤBLです、その最高峰が木原音瀬。通常、多作の作家においては当たり外れというものがありますが、木原音瀬に関しては当たりが圧倒的な当たりなので外れの存在が霞んでしまう、なので当たりが異常に多いような気がしてくる、そういう感じのスタンドです。
この作品の下克上っぷりも、破壊力がすごい部類だと思いました。ヤクザの習性や背景に関してツッコミたくなる気持ちがすべて吹き飛ぶ心地よいラスト、ラストというか、もうほんと下克上後の挿入シーンですね、あれ以上の挿入シーンはなかなかないと思います。
なお、本書はほかの多くの木原作品に比べると、めちゃくちゃ甘々かつハッピーエンドです。
「リベット」木原 音瀬 ※BL小説です
- 作者: 木原音瀬,藤田貴美
- 出版社/メーカー: 蒼竜社
- 発売日: 2006/09/21
- メディア: 新書
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HIV感染者が主人公で受けです。それも、病気が単なる悲劇のエッセンスとして使い捨てられるわけではない、正面切ってHIV感染及びHIV患者と向き合おうとする意気込みが感じられるBL作品。
一般文芸、漫画、あるいは映画など、ゲイとHIVをテーマにした作品はそこまで珍しいものではなくなっていると思います。それでも、ことBL作品でこのテーマというのは、非常に珍しい。これ以外でというと、小野塚カホリの「僕は天使ちゃないよ。」にほんのちょっと出てきたのを見たことがあるくらいです。
とはいえ、単に珍しいという理由だけで本棚に残しているわけではありません。主人公が感染した経緯のえげつなさや、感染を知ったときの絶望、それから少しでも前向きに生きようと足掻く姿、それぞれ胸に響くものがあり、BL(つまり恋愛もの)として見ても美しい話であるように思われるので、何回か読み返しています。テーマが重いせいか、人間どうしのぶつかり合いは控えめ、むしろ甘めでした。
「WELL」木原 音瀬 ※BL小説です
- 作者: 木原音瀬,藤田貴美
- 出版社/メーカー: 蒼竜社
- 発売日: 2007/02/21
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あーこれは読まないほうがよかった小説No.1です。BLであってBLじゃない、なんらかの災害で女だけが死に絶え、崩壊した世界で、人を殺したり物を盗んだり人肉を食わせたり食わされたりしながら、攻めは受けに依存し、受けはとことん嫌なやつで、最後まで読んでも一切の救いがない。なんたって女性が絶滅しているし、復活する兆しもないし、世界は荒廃したまま助けは来ず、世界観ぜんぶ投げっぱなし。
じゃあなんでこの本を手放せないのかというと、あまりにも異常なBLなので、誰かに貸したい、読んでもらってこの気持ち悪さを共有したいからですが、まあほんと異常すぎて、結局誰にも貸し出しできていない、もうどうすればいいか分からない、怖いもの見たさで読んでみたい人しか手を出してはいけない逸品。
「COLDシリーズ」木原 音瀬(全3巻)※BL小説です
- 作者: 木原音瀬,祭河ななを
- 出版社/メーカー: リブレ出版
- 発売日: 2009/01/19
- メディア: 単行本
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- 作者: 木原音瀬,祭河ななを
- 出版社/メーカー: リブレ出版
- 発売日: 2009/02/19
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- 作者: 木原音瀬,祭河ななを
- 出版社/メーカー: リブレ出版
- 発売日: 2009/03/19
- メディア: 単行本
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本棚では1冊カバーがかかっていますが、上記の通りの3冊です。3冊セットの続き物。(カバーは友人に貸すとき用に残しているものです)SLEEP→LIGHT→FEVERの順で読まないと意味が分からない仕様になっているので注意。
3冊目のために前2冊があると言っても過言ではない、3冊目を楽しむための3冊です。あらすじを紹介してしまうと3冊目の1ページ目で感じる衝撃が減る可能性があるのですが、すごくふわっとまとめると年下攻めです。才能ある年下×ぼんやりした年上サラリーマン。そんな感じ。
初めて3冊目を読んだときの衝撃はいまだに忘れられません。暴力描写はどれもショッキングで、私がよく人に説明するときに言うのは、「ケツにハサミをぶっ刺すBL」、そういうシーンがしばしばあります。それでも、ここに表現されているのは「愛」です。暴力を「愛ゆえに」とか適当なうさんくさい表現で誤魔化してるわけじゃないですよ、もうそういうクソみたいなメロドラマとは一線を画す心理描写がある、あると思います。そして、もっとも「破壊力」を感じる、近距離パワー型BLです。
なお、私は本書を読むまで商業BL(※二次創作や同人誌に対して使われる用語、同人誌と違って一般の書店に流通しているBL作品のこと)は苦手で、もっぱら二次創作専門のほも好きだったのですが、友人にすすめられて読んだ本書で突然完全に開眼してしまい、二次・オリジナル問わずBL作品全般を読み漁るようになりました。本当にありがとうございました。
「COLDシリーズ 外伝」木原 音瀬(全2巻)※BL小説です
COLD HEART in TOKYO (ビーボーイノベルズ)
- 作者: 木原音瀬,麻生ミツ晃
- 出版社/メーカー: リブレ出版
- 発売日: 2014/07/18
- メディア: 新書
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COLD HEART in NEWYORK (ビーボーイノベルズ)
- 作者: 木原音瀬,麻生ミツ晃
- 出版社/メーカー: リブレ出版
- 発売日: 2014/08/18
- メディア: 新書
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上記のCOLDシリーズからかなり後になって出版された外伝的な位置づけの作品。COLDシリーズの主人公たちがちょこちょこゲスト出演しますが、本筋は別の二人のお話です。
COLDシリーズが暴力はあるものの純愛で感動したため、本書もそういう感じの話なのかなと思ったらまったく違って、攻めがどう控えめに見てもキ○ガイと言わざるを得ないレベルで狂人、攻め×受けではなく、どう読んでも加害者×被害者にしか見えないという、あまりに高度な作品でした。
とくに下巻、読み手の精神力が試されているレベルの恐ろしい展開、狂人に追い詰められていく不運な受けに同情しながら読むしかないです。サイコパスまじ怖い。
私の勝手な意見としては、攻めを生かしたまま結末をむかえてほしくなかったですね。でもやはり破壊力は大きいので、好きか嫌いかで言うと嫌いにはなれない作品です。私の評価基準として、どの方向でもいいから振り切れてるものが好き、どの方向でも作者個人のこだわりが強く見えるものが好き、というのがあり、「嫌な方向へ」振り切れている、「木原音瀬にしか描けないであろう嫌な人物」、ということで、その振り幅の大きさに圧倒されるので本棚に残しておこうと思います。
「箱の中」「檻の外」木原 音瀬(全2巻)※BL小説です
- 作者: 木原音瀬
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/09/14
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- 作者: 木原音瀬,草間さかえ
- 出版社/メーカー: 蒼竜社
- 発売日: 2006/05/25
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BLレーベルから出版されたのち、講談社文庫より刊行された異例の作品。小説家の三浦しをん(※腐女子)が絶賛していたので、木原作品のなかでも知名度の高い二作であろうと思います。
いわゆる刑務所もの。虐待されて育ち、人を殺して収監された純粋無垢な攻めと、痴漢冤罪で人生が狂った受けの、壮大なラブストーリーです。おもに刑務所のなかで展開するのが1作目の「箱の中」、出所後の再会から始まるのが「檻の外」、それぞれ本編と、サブキャラがメインになるサイドストーリーが合間に収められています。
一般向けの文庫で出ただけあって、BL入門としてもいいのではないかなと私は思いますが、いわゆる「文学作品」として完成度が高いかと言われるとおそらくそうではない、というか、そういう軸で評価しないほうがみんな幸せになれる系の小説なので、するすると目で文字を追いながら素直に攻めと受けの心の交流を見守るといいと思います。
とくに後半の、きちんと人の一生を描ききろうとする姿勢には圧倒されました。やはり破壊力が高いです。量産型お涙頂戴系ではないですが、ラストは泣けます。
「夜をわたる月の船」木原 音瀬 ※BL小説です
- 作者: 木原音瀬,日高ショーコ
- 出版社/メーカー: 蒼竜社
- 発売日: 2009/11/20
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若い子攻め、おじさん受け。中規模の企業が舞台となるリーマンもの、木原作品にしては比較的「普通の」舞台設定ではないかと思います。
ほんの少し欲しいものがあって、欲しいものに手を伸ばすけれど届かない、届かないので諦める、諦めた人間を、しかし人間はなかなか放っておけるものではない、関わったってろくなことにならないことは分かっているのに、どうしても関り合いになってしまう、それが「縁」なのかもしれない。
とかなんとか思いながら、すっきりするハッピーエンドではないですが、じわじわ味わいのある話で、それほど痛くもなく、なんとなくBLに浸りたいときに読み返す作品です。
これ言うと元も子もないけど私、年下攻めが好きなんで。
「あいの、うた」木原 音瀬 ※BL小説です
- 作者: 木原音瀬
- 出版社/メーカー: 蒼竜社
- 発売日: 2015/07/24
- メディア: Kindle版
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バンドものです。バンドマン系というと、二次創作のパロディ先としても人気がありますし、さらにアイドルも最近けっこう流行ってるのを見ますが、そういうキラキラした話ではなく、夢破れ、おちぶれながらも必死で生きていこうとする男たちの話。
木原作品のなかではパンチ力弱めと言えますが、とくになんということもない日常の淡々とした会話が、淡々としているけれども妙に印象的というか、夢の破れっぷり、諦めっぷり、いや諦められなくてもがいてしまうっぷり、すべてが自分に重なってくるような気がして、多分誰しも、諦めた夢のひとつやふたつあるでしょうし、心臓の引っかかれ具合が絶妙だと思います。
「猫の惑星(のらねこ教室)」立原 あゆみ(全1巻)
- 作者: 立原あゆみ
- 出版社/メーカー: 朝日ソノラマ
- 発売日: 1982/12/22
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昭和57年刊行、古い少女漫画です。Amazonのリンクは書影が出ないっぽい、知人のすすめで知り、新品を探したのですがとっくに絶版だったのでやむなく中古を買いました。
表題作「猫の惑星」は、タイトル通り、猫とこの星のお話。
最後の愛は
敵のためにも滅びてやれるということだよ
竹宮恵子の「地球へ…」とテイストが少しばかり似ているかもしれません、いかにも古い少女漫画らしい、SF要素の入った愛と悲しみのノスタルジー。最近の漫画に慣れていると多少読みにくく感じるかもしれませんが、ひとつの名作であると思います。
「雪の峠・剣の舞」岩明 均(全1巻)
- 作者: 岩明均
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2001/03/21
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「寄生獣」の岩明均の寄生獣以降の作品。時代ものの中編が二本です。
岩明均はできれば「寄生獣」も「ヒストリエ」もその他短編集も全部そろえておきたいくらいですが、物理空間と予算には限りがあるのでひとまず本書を置いています。物理空間の限界憎し。予算悲し。余談ですが、「寄生獣」におけるミギーとシンイチの関係って、ちょっとBLっぽい、性を超えた愛情ですよね。人類と寄生生物の壮大な戦いに胸ふるわせる一方で、ミギーとシンイチのあいだに結ばれゆく「情」にいつもほっこりしてしまう私です。
さて本書、ストーリーは日本史こぼれ話といった感じで、本当にあった「かもしれない」歴史を紐解くようなお話。どちらも後味すっきり系ではないですが、いかにも岩明均らしい人間観察の結果だなあと思います。
ときに岩明均の絵というと、静止画のようなというか、いや、動きの多い映像を一時停止してわざわざ「止まったものとして」見ているような、なんか不思議なコマが多い、にも関わらず、連続してみると見事に動いているというか、コマ送りの映像を見ている気分になります。そこがなんともいえず不思議で、少し不気味で、絵も内容の一部というか、作風そのものな感じがする。
登場人物はみな大げさなディフォルメの一切ない人間らしい体型、ごく普遍的な容姿の「ヒト」が描かれているにも関わらず、キャラクターたちの「かっこよさ」あるいは「かわいさ」「美しさ」が感じられるのもすごい。
「剣の舞」は女性がかなり不遇なので読む人によっては不快かもしれない点だけ注意。というより、岩明均はどういうわけか男くさい、いかにも男性作家という感じが強いのですが、私の単なる感覚で言っているためどういうことかまだ説明できません。研究して言語化していきたいですね。
以上、本棚Aの2列目でした。長い。需要があるのかないのかまったく分からないというか多分ないのではないかと思うけど続けていきます。