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本棚もの語り

本棚にみっちり詰まった漫画を端から端まで語り尽くすブログ

本棚A - 1列目:「フランケン・ふらん」は科学あそび漫画の最高峰

本棚語り

天井つっぱり型本棚の一番上の列です。

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一番上ということで、入れ替わりがないよう完結している作品を選んで並べています。左端から紹介することにします。

フランケン・ふらん」木々津 克久(全8巻)

フランケン・ふらん 1 (チャンピオンREDコミックス)

フランケン・ふらん 1 (チャンピオンREDコミックス)

グロとオカルトと科学の融合、あらゆる生命を全力でおちょくることにより、生命の尊さを逆説的に浮き彫りにしていったりもとくにしない稀代の名作、それが私にとっての「フランケン・ふらん」です。言わずもがなですが、いきなり大好き過ぎる作品なので、うまいこと語る自信がまったくないわけです。

まずストーリーの紹介をしておきます。主人公は「ふらん」という名の美少女、いや、美少女の形状をした人造人間です。彼女を造ったのは、生命工学をはじめあらゆる科学技術に精通した天才博士・斑木直光。ただし、斑木博士の名はたびたび登場人物によって語られるものの、彼本人が漫画に登場することはありません。あくまでも博士の生み出した人造人間「ふらん」が主人公であり、彼女が様々な人々からもたらされる依頼、難題、オカルトに遭遇しつつ、博士にかわってそれらを解決していく、というのがだいたいの話の流れ。

ところが主人公のふらんちゃん、人情家ではあるものの「人間」ではないためか、どうにもズレており、ただ純粋に依頼主のためを思って施した「術式」の結果、なんかたびたびとんでもない事態を引き起こしています。

たとえばふらんちゃんは光を失いつつある画家に出会ったとき、親切心から画家の目を「治療」してあげるのですが、ついでに、あくまでもついでにね、画家なんだからよりよく見える目があったほうがいいだろうと考え、通常は人間の視覚で捉えることのできない赤外線や紫外線、X線に果ては短波通信まで知覚できるよう、色覚細胞を四倍に増やしてしまうわけです。画家はもうわけの分からん世界に突然放り出されるわけで、ギャーとかなんだこれはとか言いながら森の中に飛び出していくんですが、はてさて……という。(2巻、Ep.8 BEAUTIFUL WORLDより)

分かりやすくまとめるとこうですね、 
(1) なんか事件が起こり、(2) ふらんちゃん登場、(3) 決めゼリフ「術式を開始する」、(4) 大変なことになる。

この一連の流れがひとつのエピソードとして、単行本1冊につきおよそ7~8本ずつ収録されています。なかにはふらんちゃんがあまり出てこない話や、同じ登場人物が出てくる関連エピソード、2話連続するエピソードなんかもあります。

形式として似てるのは「アウターゾーン 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)」(光原伸)や「World 4u_ 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)」(江尻立真)、また、善意で願い事を叶えるけど結果大変なことになるという点では犬木加奈子の「かなえられた願い (MF文庫)」が近いのではないかと思います。

絵柄は非常に丁寧で、女の子の目が印象的ですごくかわいいです。で、丁寧であるがゆえに、グロはちょっと異常なクオリティと言っても過言ではないですね。私のようなグロ好きにはこれ以上ないほどのご褒美です。代表的なエピソードとしては、女の子の首にイモムシが繋がってるやつ(1巻、Ep.2)とか、多数のエピソードに登場する虫とか、ありていに言えばゴキブリとかですね、あとクラゲとか、どれも作者のこだわりが垣間見えてそこが素晴らしいと思います。ただしもちろん、グロが苦手な方にはおすすめできません。まあ、グロも丁寧に描き込まれていると生理的嫌悪感をもよおさなくなるというか、だってホラ例えばぼんやりした心霊写真は怖いけど、顕微鏡で精細に観察する細胞は別に怖くないじゃないですか、そんな感じで、グロはグロなんだけどおどろおどろしいグロじゃなくて、一種の「科学あそび」だと思うので、いや自分でもだんだん何言ってるか分かんなくなってきてるけど、要するに絵柄やグロさだけで敬遠するのはもったいない、一人でも多くの人に読んでほしい、そのように思う次第であります。

あと、絵柄やグロだけでなく、ちょっと哲学的だったり厭世的だったり、世の中を冷静に分析するようなセリフが多く、ストーリーテリングも巧みだと思います。絵柄の「グロだけどグロじゃなさ」とも通じるんですが、話のオチも同じで、悲劇的な展開でもとくにくどくなく読後感がさっぱりしてるんですね。ふらんちゃんは親切だけど冷静で、非常に理性的です。

とくに印象に残っているセリフをいくつか引用します。

「細胞の劣化が老化だとすれば いずれ老化は病名の一つになる」(3巻、Ep.15 ETERNAL BEAUTYより)

これはその通りというか、今もそんな感じですよね。いずれ老化を病気と捉え「治療」するのが当たり前になるんじゃないかな、と思う、このエピソードは全然そういう問題提起っぽいのが主題じゃないんですが、なにかのついでにちょこっと読者の心を暗黒ノックしていくのがうまい作品です。

(暗黒ノックっていうのは今思いついた造語です。意味はなんとなく察してください)

「余事象の数が理想を産むのです」(4巻、Ep.28 A VERY LUCKY MANより)

「余事象」という単語が超好き、好きだけどなかなか普通の漫画には出てこないので貴重なシーンです。エピソードとしても味わい深い話でした、結末はあっけない。けどそれもまたいい。

「オカルトに対して科学は仮説を提供することしかできない」(6巻、Ep.41 SEA SPECTERより)

そうだよなあ、というか、この漫画そのものが「オカルトに対する科学の仮説」の集合体のようなものだと思います。納得できる表現。このエピソードではありませんが、「オカルトに対する科学の仮説」として一番おもしろかったのは7巻のEp.47「LIVING DEAD」でした。ゾンビを「病気」と仮定し、ゾンビ状態を「寄生生物による宿主の誘導」と説明づける話なのですが、ゾンビが本当にこの世に存在するとしたら、これ以上納得できる仮説はないんじゃないかと思います。作者はこういうこと常日ごろから考えているんだろうなあ、いい変態だなあ、最高です。

「我々は病を治す薬を作っているわけではない コントロールできるものを作っているんだ」(7巻、Ep.46 ANTIFAT REMEDY)

これアメリカっぽいどこかの国の製薬会社の人が言うセリフなんですけど、ほんとそうですよ、痩せ薬を作ったら太らせる薬も作る、消費をコントロールしてなんぼの世界なわけですね、漫画の世界じゃなくて、今この世界が。

「科学的には我々は探求をやめない空っぽの袋でしかないのよ」(8巻、Ep.57 BLOOD TYPEより)

悲しい事実ですね~、でも事実なので、淡々と述べられています。この低温な感じが好きです。本当になぜ8巻で終わってしまったのか、もっと何十巻でもこのノリで続けてくれたら、私も探究心の奴隷としてお金を払い続けていたと思うのですが……。

なお、主人公のふらんちゃんのほか、準レギュラーとして活躍する妹・人造人間の「ヴェロニカ」ちゃん、姉にあたる人造人間の「ガブリール」ちゃん、また、斑木研究所の個性豊かな面々も、みな一度読んだら忘れられない魅力溢れるキャラクターたちです。私は首が人間(イケメン)で体が猫の沖田のツッコミが好きでした。

好きな点ばかり語ってきましたが、一点だけ難所を挙げるとすれば、「表紙がなんかエロい」ことかもしれません。書店でレジに出すとエロ本じゃないかと思われそうで買いにくいかもしれませんね。書店員はそんなことまず気にしてないので堂々と買うといいと思いますし、あとまあ今はAmazonという便利なネット販売サービスがあるので何も気にせず買うことができると思います。

ちなみに、この「ちょっとエロい」カバー下はさらにエログロいことになっています。一方、表紙を開いた先のカラー扉ページはだいたいレトロホラーです。

以上、「フランケン・ふらん」に関する語りでした。

なお、本書の連載元の雑誌「チャンピオンRED」は、聖闘士星矢やキャプテンハーロックのリメイクなどちょっとほかにない冒険的な作品が多い印象です。

ゴージャス★アイリン」荒木 飛呂彦

これはさすがに語るまでもないというか、コンビニコミックになっていたので買ったものです。ジョジョについては、すべて読んでおり自宅には5部と6部を所持しているものの、巻数が多いのでうまいこと本棚に並べられず、せめて1冊でいいからいつでも見える場所に荒木作品を置いておきたいという思いで、この短編集を飾っているというわけです。

読み物というよりお守り、護符のようなものですね。なにかしら宿っていると思います。

僕と君の間に」(全3巻)鈴木 央

僕と君の間に 1 (ヤングジャンプコミックス)

僕と君の間に 1 (ヤングジャンプコミックス)

はい。アニメ化もされた「七つの大罪」で今をときめく鈴木央の、やや初期のファンタジーっぽい作品です。

鈴木央といえば、週刊少年ジャンプで連載されていた「ライジングインパクト」や、週刊少年サンデー移行後の「ブリザードアクセル」「金剛番長」も有名でしょうか。私はほぼ全部読んでいる忠実な読者です。ライパクはよかったですね、少年と少年の愛……いや友情がよかったです。その後の作品も少年どうしの心の交流が素晴らしいのですが、最終的にほぼすべてのメイン男性キャラクターたちが女性と出来上がってしまうという、鈴木央作品特有のセオリーがありますので、純粋に物語を楽しむという気持ちで読まないと一方的に失恋したような気分になって危険、しかしそれが分かっていても読んでしまう、なんかそういう魅力がある作品ばかりです。

好みの話になってしまうのでうまく語ることが難しいですが、私はとにかく鈴木央の絵が好きというのもあります。有機的というか、やわらかい描線、しっかりディフォルメされてはいるものの生きている人間以上に豊かな表情、嫌なやつは嫌な顔をしているし、嫌な顔でもなんか憎めなかったりするし、闇を抱えたイケメンとか最高で、明るすぎて逆にブラックホールみたいになってる攻めに押し倒されてほしい、そう、絵柄そのものというより、絵柄を含めたキャラメイクが好きなのかもしれません。

余談ですが金剛番長に出てくる卑怯番長だけは女とくっついてほしくなかったですね……でも女のほうのキャラも好きなので嫌いにはなれませんでした。読みながらついカップリングを探してしまう腐女子は常にちょっと悔しい思いをする、それもまた鈴木央作品の醍醐味です。

さて本書「僕と君の間に」ですが、途中で作者が飽きたか、あるいは打ち切りか、とにかく尻切れトンボっぽくハッピーエンドになってる作品です。私以上に鈴木央大好きな弟に言わせると「鈴木央唯一の駄作」だそうですが、残念ながら私も賛成せざるを得ません。ただ、駄作であるからといって嫌いかというと、これが難しいところで、全然嫌いになれないんですね。私がマゾだからとかそういうことではなくて、なんかこの未完成っぽいところが鈴木央らしいというか、(友達でも知人でもなんでもないけど勝手に)鈴木央の持ち味だなあと思って、あと1話がやたら古き良きSFっぽくて好きです。

これだと紹介になってないので、ほんのちょっとあらすじを述べておきますと、「人類が死に絶えた集落に残った弱っちい少年が旅に出て、旅の途上で出会った年上の超絶強いクーデレお姉さんと交流を深めながらリアルで汚いファンタジー世界を冒険する」というような話です。早い話がおねショタです。鈴木央、おねショタ好きすぎるだろ、と思う。それ以上の感想がなかなか難しい。

あと一言感想をつけ加えるなら、アマゾネスかわいいです。

西洋骨董洋菓子店」(全4巻)よしなが ふみ

西洋骨董洋菓子店 (1) (ウィングス・コミックス)

西洋骨董洋菓子店 (1) (ウィングス・コミックス)

よしながふみは基本ですよね。なんのとは言いませんけど、基本です。本書「西洋骨董洋菓子店」はWings連載中に本誌でもちらちら読んでいて、雨の中くるくるまわる男二人すげー、と思った覚えがあります。それで単行本は2巻が出たくらいのときに買って、そのまま最終巻まで買い続けて、あのちょっと反応が難しい実写ドラマを経て、今に至るという。よしながふみは他の作品ももちろん持ってますが、やっぱり初期の、あのWingsでの出会いが衝撃的だったので、今も本棚にきっちり並べています。

ストーリーとしては、脱サラした主人公・橘圭一郎が、学生時代の知り合いであり、今は自他ともに認める「魔性のゲイ」となった伝説のケーキ職人・小野裕介とともに、洋菓子店を開いていろいろやっていく、という、ほのぼの日常系コメディ。とはいえ、最終話付近はだいぶシリアスな展開もあります。

レギュラーとなる登場人物はほぼ男で、普通にゲイがいて、少女漫画になじめなかった我々(敢えて総称は伏せる)にとっては、心やすまる漫画世界と言えるでしょう。あとケーキが超おいしそう。現在連載中の「きのう何食べた?」に通じるレシピ中心の小話もあります。

しかしあのテレビドラマ(しかも月9)はなんだったのか……椎名桔平の完璧な仕上がりっぷりはよく覚えていますが。調べたら2001年放送って、もう十五年も前なのか、そうだよな、滝沢秀明って今どうなってるのかな、というような、そんな気持ちになりました。

読み返しすぎて内容を覚えきっているので、全部忘れてもう一度最初から読みたいですね。これは読み終わったあとの感想とかそういうのじゃなくて、読んでる最中がほのぼのして気持ちいい系の漫画です。

「この恋は実らない」(全3巻)武富 智

武富智のちょいエロ純愛もの。というか、武富智がなんでちょっとマイナーなのかさっぱり分からない、武富智作品はだいたい全部買ってる私です。念のため調べようとしたらいまだにWikipediaに項目がなく(※各作品で項目が作られているが、作者名のページがない)、なんでやねんという気持ちになります。

なんでやねん。

はい、ざっとストーリーを紹介すると、激モテ最低ヤリチン野郎の主人公が、清楚な黒髪ロングお嬢様と出会い恋に落ち、ヤリチンゆえの騒動を経て、予定調和的にハッピーエンドする、今どき珍しい超絶普通のメロドラマです。

そう聞くと、つまんなそうと思う人もいるかと思うのですが、待ってほしい、話は単純かもしれないが、単純であるがゆえに、いや単純さを超えてノスタルジックなのが武富智作品なのです。どこかで誰もが見たかもしれない、でもどこで見たのか誰も覚えていない、そんな心の奥底の淡い「なにか」が、この作品には描き出されていると私は思います。

ただ、ノスタルジーだけかと言えばそうではなく、わりとエロいです。掲載誌がヤングジャンプなので、健全な青少年が喜びそうな、ストレートど真ん中の「わりとエロ」です。いわゆる普通の青年男性向け漫画、おっぱいやパンツは普通に出てくるし、質量や温度を感じる系の肉厚な絵柄なので、一般紙で読めるエロの代名詞的存在である「ToLOVEる」よりあるいはエロいのではないかと思います。なので、エロが苦手な方にはあまり向かないかもしれません。わざわざ「向かない」とか言っているのは、これだけ読んで武富智を嫌いになる人がいたらつらいからです。武富智はエロ「も」描けるだけです、エロくない作品だって素晴らしい、本書にたまたまエロが多いだけです。もちろんエロ好きな方には喜ばれると思います。しかしエロ好きな人はエロ本を読むと思いますので、そういう意味では力不足かもしれませんが、使用は可能な範囲内であると思います。

全力であほなフォローをしてしまいましたが、言わなくていいことまで言ってしまうくらい武富智の漫画はいいです。コマ割りとか演出がドラマティックでノスタルジックなんです。そのへんは、また別の作品を紹介するときにも全力で語ると思います。

そんなわけで、なんのどんでん返しもないノスタルジックなちょいエロ純愛、「この恋は実らない」の紹介でした。

「未開の惑星」(全2巻)松本 次郎

未開の惑星  上

未開の惑星  上

私これ読んで泣いたんですが、どうして泣いたのかというと、悲しかったからとか、いい話だったからとかそういうんじゃなくて、ただ結末の「なにもなさ」に圧倒されて泣いた、そんな感じで、感情をやたらとかき回してくるのが本書です。

ストーリーはというと、どこかの貧しい村で、幼なじみの少年1人と少女2人が、なんやかんやで戦争に巻き込まれていき、夢はたいして叶わず、語弊を恐れず言うならひたすら社会の底辺を這いずりまわる、ただそれだけの漫画です。

エログロは当然として、さらに精神的にもグロい。主人公の少年は典型的なダメ人間らしく、無気力で妄想ばかりしていて少女2人にふりまわされ、時には肉体的ないじめも受ける、けれど、絵の才能だけがある。その唯一の絵の才能も踏みにじられていくんですが、主人公になんらかの好意を寄せつつも見下す少女たちも、同じように社会や戦争によって踏みにじられていきます。そうして登場人物を徹底的に絶望へ絶望へと追い込んでいく、同時に読者も絶望します。

しかしながら、登場人物たちはただ絶望するだけ、読者に媚びたり大げさに傷ついて見せたりしない、演出されたような美しい涙も流さない、淡々と汚く生きていく。この「大げさじゃない感」が初期の松本次郎作品のいいところかな、と思います。いや、松本次郎ってふざけてる作品はオチとかけっこうひどいのもあるし、明らかに本人が飽きたんじゃないかとか思うのもわりとあるんですが、これはある程度真面目に、なんなら血でも流しながら描いたんじゃないかなって思うような作品で、私としては一番好きです。

また、松本次郎作品というと、出てくる女性の顔がだいたい同じで、もっと言うと男性の顔も同じだし、女性の体型もほぼ一種類しかないんですね。でもこの作品においては、二人のヒロインが出てきて、ギリギリ描き分けがされており、どちらの女性も個性がある、ちょっと珍しい部類にあたるのではないかと思います。

あと、私はこれ読んでからしばらくゴキブリが本当に嫌いになりました。

「ビューティフルピープル・パーフェクトワールド」(全2巻)坂井 恵理

ビューティフルピープル・パーフェクトワールド (IKKI COMIX)

ビューティフルピープル・パーフェクトワールド (IKKI COMIX)

美容整形の技術が上がり、老若男女誰でも美容整形することが当たり前になった世界におけるエピソード集。登場人物は翼を生やして空を飛んだり、男性がアニメに出てくるような美少女になったり、中年女性が幼女みたいになったり、ありとあらゆる「整形」技術が登場します。各エピソードでは、これらの整形によって人々の生活や心情がどのように変化していくかが、丁寧に、淡々と描かれています。

題材は普遍的で、エピソードもどちらかといえば地味なのですが、美醜に関する話題は地味ではあっても心の根底に容赦なく突き刺さってきます。つまり、おそらく誰もが一度は夢見たことのある「理想の自分の容姿」を思い出さずにはいられないだろうし、その理想の容姿を手に入れた自分がどう生きるかまでついでに想像してしまうかもしれない、でも結局現実にこの世界に生きているのは理想とはかけ離れた「自分」であるという事実は受け入れざるを得ないし、漫画を通して鏡を見るように自分を見てしまうと思うわけです。つまるところ破壊力のある題材なんです。しかもそれをストレートに描いちゃうから……。

人類に視覚がある限り、「容姿」に関する話題は尽きないと思いますが、芸能人や、自分の周りにいる誰か一人が整形する話ではなく、誰もが自由に整形している話というと、案外けっこう珍しいのかなと思います。もちろん「誰もが」お金さえ出せば好きなように整形できるので、「アンチ整形」みたいな団体も描かれるわけで、その話のオチはとくに秀逸でした。悲しくなります。

結局顔やん、って、そういうことです。そういうことだって改めて思うとつらい人が大多数だと思いますし、そういうことですってわざわざ言われたくないと思うので、感覚的には「傷を塩水で洗うような」漫画だなと思いました。

「セックスなんか興味ない」(全4巻)きづき あきら・サトウ ナンキ

セックスなんか興味ない 1 (IKKI COMIX)

セックスなんか興味ない 1 (IKKI COMIX)

タイトルで損してると思う漫画No.1、「セックスなんか興味ない」です。見れば分かると思いますがタイトルは逆説で、性にまつわるあれこれについて興味津々に、ときにコメディタッチ、ときにホラーを交えつつ描き出す漫画です。このタイトルを書店のレジに出す勇気がないという方は、カマトトぶるんじゃねぇAmazonという便利なネット販売サービスを利用しましょう。あるいはKindle版を選ぶのもよいと思います。

これほんとこのタイトルじゃなければ気軽に紹介しやすいのに……でも仕方ありません。ある意味ではこのタイトルだからこそ興味をひかれて購入に至る人もいるでしょう。そして内容が思ったのと違うと思うかも……というのも、収録されているエピソードのなかには、圧倒的な「怖い」バッドエンドもあるからです。ハッピーエンドよりバッドエンドのほうが多いかもしれない、というか、バッドエンドが印象に残りすぎるからそう思うのかも。とにかく話によっては夢に出てきそうなくらい怖いので、シコビリティは低いです。(今「シコビリティ」って単語これでいいのかなと思って調べたら一応正しく(?)は「シコリティ」らしいですが意味的にはアビリティのビリティだから「シコビリティ」でもいいのではないか)

性にまつわるオムニバス漫画なので、性的虐待の話もあれば、出産・育児の話もあり、さらに女性用のダッチワイフ的な人形の話もあり、普通の恋愛みたいな話もあります。どれも一筋縄ではいかない話ばかりで、普通のエロ本みたいな始まりだったとしても、全然違う方向に舵が切られていくことが多いですね。雰囲気的には「センチメントの季節(1) (ビッグコミックス)」(榎本ナリコ)に若干近い気もしますが、あの漫画みたいな感傷は一切ない、人々のすぐ隣にありそうな、全然きれいじゃない性事情、といった感じです。

実は3巻の後ろのほうにかなり怖い、ちょっとオカルティックな話が出てきて、初見で軽く引きずるくらい恐怖したので、それ以来あまり読み返せていません。でもたまに、恐怖を忘れた頃に読み返してまたふるえたりするために、ずっと置いておこうと思います。

今生きている誰もがその前世代の生殖行為の結果であると思って世界を見渡すと、そりゃもう当たり前ではあるんだけど、なんか喉に小骨が引っかかったような気分になる、そういう気分を思い出すための漫画だと思います。

童話迷宮」釣巻 和

童話迷宮 上(Bunch Comics Extra)

童話迷宮 上(Bunch Comics Extra)

釣巻和の絵がとにかく好きで買って置いてある、私にとっては言わば観賞用の漫画です。ストーリーはというと、小川未明の小説(分類としては児童文学です)を原案とした、宮沢賢治風に言うと「幻燈」集みたいな感じ。小川未明の雰囲気が好きならまず間違いなく好きになりそうですが、ストーリーだけを見ると原作からの解釈が独特でやや難解というか、不条理系かもしれません。

下巻に出てくる「月のナイフ」という読み切り作品がまた、様々な解釈ができそうで、尚且つちょっとホラーみたいな感じもあり、小川未明を初めて読んだときの、背筋にちょっとぞわぞわした感覚があとを引く感じと確かによく似ているような気もします。いやもう、ストーリーを解説できるほど読みこなせている自信が私にはないので、どこまでも雰囲気で紹介するほかないですし、でもそういう楽しみ方でいいんじゃないかなと思える作品です。

とにかく細い線でびっしり描き込まれた美しい絵に見とれるための漫画。黒田硫黄のようなぶっとい描線も私は好きですが、逆にめちゃくちゃ細かい描線も好きで、どの方向でもいいので振り切れている漫画が好きなわけです。この漫画は、繊細さ側に振り切れている。

本書が気に入った場合、同じ作者の「くおんの森(1) (RYU COMICS)」もおすすめです。諸事情で今の私の本棚には今はありませんが、おすすめです。

「言霊」山岸 凉子

言霊 (KCデラックス BE LOVE)

言霊 (KCデラックス BE LOVE)

言わずと知れた山岸凉子の短編。バレエ少女が登場し、バレエについて描かれますが、題材は「言葉」と、「言葉によって自分をコントロールすること」であるように思います。細かく解説するとただのネタバレになってしまうので、山岸凉子のちょっと含みのあるホラーではない人情話が好きな方にはおすすめです。ただし、「日出処の天子」が至高でそれ以外認めない系の方がもしいたら(山岸凉子に限ってはやおい的な入り口から入門しても結局その作品群のとりこになってしまう方が多いというか、私が完全にそれです)、本書に関してはBL要素はありませんので、ご注意ください。

「牧神の午後」山岸 凉子

牧神の午後 (MFコミックス ダ・ヴィンチシリーズ)

牧神の午後 (MFコミックス ダ・ヴィンチシリーズ)

同じく山岸凉子の短編。実在したバレエダンサーであるニジンスキーをモデルに描かれた表題作ほか1編と、作者のバレエ体験エッセイです。どれもバレエが共通のテーマとして出てきますが、バレエ漫画というわけではない、人物の心理描写と演出がいかにも山岸凉子で、多くを語らないのに人物の表情や少ないセリフから様々な情景が浮かぶ、昨今の雰囲気漫画とは一線を画す重厚な心理漫画であると思います。ただ、ニジンスキーの伝記的な部分については、やや説明調の描写が続くかも。

私はバレエにそこまで興味がなく、バレエにそこまで興味がない私でも人物の心理にはついていけるし奥深いものを感じられるという程度にはバレエに特化した漫画では“ない”ものの、バレエが好きでバレエを踊ったことのある人が読むとまた違った味わいを感じられるのではないかと予想しています。実際どうなのでしょう。

山岸凉子については、「日出処の天子」の文庫版と完全版少しを所持していて、コレクション用のストッカーに大事にしまってあり、つまり大ファンなので、できれば全作品を本棚に並べたい欲求があるのですが、彼女のホラーはちょっと洒落にならないレベルで怖く、読み返すどころか、ちょっと思い出しただけでいまだに一人でトイレに行きたくなくなるくらいなので、気分的に家に常時保管できず、今のところ本棚に存在しているのがこの2冊になってしまったという悲しい経緯があります。

日出処の天子」は保管用だけでなく常に読む用も必要な気がしてきました。